東京地方裁判所 平成5年(ワ)21362号 判決 1997年7月28日
主文
一1 被告五輪建設株式会社は、原告ら各自に対し、別紙個別的支払金額表記載の頭金支払額欄の金額及びこれに対する平成五年一二月一〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
2 原告らの基本事件におけるその余の請求をいずれも棄却する。
二1 別紙一〇一ないし一四五記載の各<1>欄の原告は、被告株式会社ダイエーオーエムシーに対し、それぞれ同<31>欄の金額(ただし、別紙一〇四、一一五、一一六、一二三及び一三四の各<1>欄の原告にあっては別紙一四七記載の金額)及び同<30>欄の金額に対する平成五年四月一七日から(ただし、別紙一〇七記載の<1>欄の原告にあっては平成六年五月一五日から、別紙一一八記載の<1>欄の原告にあっては同年一月一四日から)支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。
2 別紙一〇一ないし一四五記載の各<1>欄の原告は、被告株式会社ダイエーオーエムシーに対し、それぞれ同<22>欄の各金額に対する同<21>欄の年月の各二八日から(ただし、別紙一四六記載の年月については同記載の起算日から、また、同<22>欄の最後の代位弁済額に対しては同<21>欄の最終日(別紙一〇九記載の<1>欄の原告にあっては平成五年三月一日)の翌日から)支払済みまで年二九・二パーセントの割合による金員を支払え。
3 別紙一〇一ないし一四五記載の各<1>欄の原告は、被告株式会社ダイエーオーエムシーに対し、同<27>欄の各金額に対する同<21>欄の年月の各二八日から(ただし、別紙一四六記載の年月については同記載の起算日から、また、同<27>欄の最後の保証料に対しては同<21>欄の最終日(別紙一〇九記載の<1>欄の原告にあっては平成五年三月一日)の翌日から)支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。
4 被告株式会社ダイエーオーエムシーの個別事件におけるその余の請求をいずれも棄却する。
三 訴訟費用は、基本事件について生じた部分はこれを二分し、その一を被告五輪建設株式会社の、その余を原告らの各負担とし、個別事件について生じた部分は原告らの負担とする。
四 この判決は、第一項1及び第二項1ないし3に限り、仮に執行することができる。
理由
【事実及び理由】
第一 請求の趣旨
一 基本事件(原告ら)
1 被告らは、原告ら各自に対し、連帯して別紙請求金額目録記載の請求金額及びこれに対する平成五年一二月一〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は、被告らの負担とする。
3 仮執行宣言
二 個別事件(被告株式会社ダイエーオーエムシー)
1 別紙一〇一ないし一四五記載の各<1>欄の原告は、被告株式会社ダイエーオーエムシーに対し、それぞれ同<31>欄の金員及び同<30>欄の金員に対する平成五年四月一七日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。
2 主文第二項2及び3と同旨
3 訴訟費用は、原告らの負担とする。
4 仮執行宣言
第二 事案の概要
本件基本事件は、いわゆる不動産(ホテル)共同投資を行った原告らが、ホテル持分の販売者である被告五輪建設株式会社(以下「被告五輪建設」という。)、右持分の賃借人である被告五輪ランド株式会社(以下「被告五輪ランド」という。)、購入資金の融資者である被告大東京火災海上保険株式会社(以下「被告大東京」という。)及び右融資の連帯保証人である被告株式会社ダイエーオーエムシー(以下「被告ダイエー」という。)を相手方として、各原告と被告らとの間の契約が一個であること又は一体性を有することを前提として、右契約についての「出資の受入れ、預り金及び金利等の取締りに関する法律」(以下「出資法」という。)違反、「貸金業の規制等に関する法律」(以下「貸金業法」という。)違反、錯誤による無効若しくは詐欺取消しによる不当利得返還請求権若しくは債務不履行に基づく解除による原状回復請求権に基づき、又は被告らの共同不法行為による損害賠償請求権に基づき、原告らの各支払額から受領した賃料額を控除した金員及びこれに対する遅延損害金の支払を求めた事案である。
これに対し、本件個別事件は、右連帯保証人である被告ダイエーが、原告らに対し、連帯保証債務の履行に伴う求償金、未払保証料、登記費用等及びこれらに対する遅延損害金の支払を求めた事案である。
一 基本事件及び個別事件共通の争いのない事実
1 原告ら
原告らは、被告五輪建設から別紙物件目録記載一ないし三の各ホテル(以下「本件各ホテル」という。)の客室等の持分権(以下「本件持分」という。)を購入した。
2 被告ら
(一) 被告五輪建設
被告五輪建設は、不動産の建設・販売、ホテルの経営及び管理等を業とする株式会社で、その関係会社から成る五輪グループの中心的存在である。
被告五輪建設は、本件各ホテルを建設し、本件持分を原告らに販売したが、平成三年一二月二五日第二回目の不渡手形を出して倒産した。
(二) 被告五輪ランド
被告五輪ランドは、不動産の管理、ホテル経営・管理等を業とする株式会社で、五輪グループに属する。
被告五輪ランドは、本件各ホテルの共有持分権者からホテル客室等を賃借し、本件各ホテルの管理及び運営に当たっていたが、被告五輪建設が倒産したため、同じく倒産状態に至った。
(三) 被告大東京
被告大東京は、損害保険等を業とする株式会社であり、各原告が被告五輪建設から本件持分を購入する際、その代金額から頭金額を差し引いた額の金員を各原告に融資した。
(四) 被告ダイエー
被告ダイエーは、金銭消費貸借、債務保証等を業とする株式会社であり、被告大東京の各原告に対する右(三)の融資について、各原告の債務を連帯保証した。
被告ダイエーは、被告五輪建設の倒産により各原告が被告大東京に対する債務の支払を停止したため、被告大東京に対し、各原告のために代位弁済した。
(基本事件)
二 原告らの主張
1 本件のホテルオーナーズシステムの概要
(一) 本件のホテルオーナーズシステム(以下「本件ホテルオーナーズシステム」という。)は、ホテルの土地・建物という不動産をも含む経営事業体の持分の売買、金銭消費貸借、保証委託、抵当権設定等が不可分一体となって形成される利殖方法であり、出資の一〇年後には出資した金額の二倍以上の金額の払戻しが受けられるという内容の金融商品である。
(二) 本件ホテルオーナーズシステムにおいて出資した金額の二倍以上の金額の払戻しが受けられることとなる仕組みは、一口八〇〇万円を購入する場合を例に取れば、次のとおりである。
(1) 顧客は、被告五輪建設から、一口を八〇〇万円(内訳・管理運営費一五〇万円、持分権取得代金六五〇万円)とし、一〇年後には、被告五輪建設が右持分権を一一六〇万円で買い戻すという特約の下に本件持分を購入する。ただし、右一一六〇万円は本件持分の買取金額の最低保証金額であり、不動産の価値が上がれば右買取金額も上がるものとされた。
(2) 右(1)の購入に際し、顧客は、原則として、頭金一六〇万円を支払い、残金六四〇万円は被告大東京からローンを組んで借り入れて支払い、被告ダイエーは、右ローンについて顧客の債務を連帯保証する。被告大東京に対する右ローンの支払は、元利均等方式によることとされ、年間負担額は、五一万八六〇〇円である。
(3) 被告五輪ランドは、顧客らから本件各ホテルの客室等を賃借し、一口八〇〇万円の持分権者に対し、年三六万円の賃料の支払を保証する。右賃料は、被告大東京に対するローン引落口座と同一の賃料振込口座に振り込まれ、自動的にローンの支払に充てられる。
(4) 顧客の課税所得を年収五〇〇万円と仮定した場合、年約七万八二〇〇円の節税効果がある。
(5) したがって、顧客の年間負担額はローンの負担金額から賃料収入額及び節税効果額を控除した八万〇四〇〇円であり、月間負担額は六七〇〇円である。
(6) 顧客は、一〇年後に被告五輪建設から一一六〇万円で本件持分の買戻しを受けた場合、自己資金として頭金一六〇万円及びローン負担金額八〇万四〇〇〇円(年八万〇四〇〇円×一〇年)の合計二四〇万四〇〇〇円の実質負担をすることによって、その三倍近い六六四万円の払戻金を得られることになる。
(三) 被告らの共同事業性
被告五輪建設が本件ホテルオーナーズシステムを企画・立案したが、被告大東京及び被告ダイエーは、本件ホテルオーナーズシステムの構造を検討し、これを十分理解した上でこの事業に参加した。
被告五輪建設、被告大東京及び被告ダイエーは、本件ホテルオーナーズシステムにおける具体的な役割分担を決めるため、平成二年九月三日「ホテルオーナーズシステム融資保証業務に関する協定書」(以下「本件協定書」という。)を取り交わした。
本件協定書には、火災保険金請求権上の質権設定、団体信用生命保険、期限の利益喪失、保証の履行等の定めのほか、相互依存提携関係を示す条項が多数存在し、被告大東京及び被告ダイエーが被告五輪建設の倒産につき共同責任を負担すべきことを示している。
以上、本件ホテルオーナーズシステムは、被告らの共同事業として社会的経済的に一体性を有しており、被告らは、共同事業者である。
2 本件ホテルオーナーズシステムの法律構成
(一) 主位的法律構成
(1) 本件ホテルオーナーズシステムの加入に際し締結される契約は、形式的には、売買契約、賃貸借契約、金銭消費貸借契約、抵当権設定契約、保証委託契約等の各契約であるが、右各契約は、それぞれ本件ホテルオーナーズシステム全体の中の一場面を形成するものであり、相互に有機的に結合しているため、一つが欠けると他の合意自体が存在意義を失うという意味で一体的関係にある。したがって、本件ホテルオーナーズシステムにおいて締結される契約は、「ホテルオーナーズシステム加入契約」とでもいうべき全体として一個の複合的性質を有する無名契約(以下「本件ホテルオーナーズシステム加入契約」という。)であり、その契約成立に至る手続の流れは、<1>被告五輪建設が契約内容を説明して申込みの意思表示をする、<2>顧客は、被告五輪建設に対し、ローン形態を利用した出資金分割払が自己の収入に照らして可能であることを停止条件として右申込みに対して承諾する旨の意思表示をし、契約予約金類似の性質の頭金を支払う、<3>被告らが顧客に対し、賃料名目の配当金収入及びローン形態使用による支払方法によれば顧客の収入に照らし支払可能であることを説明し、右<2>の条件が成就するものであることを確約する、<4>顧客は、右<3>の被告らの説明を受けて、最終的に本件ホテルオーナーズシステム加入契約を締結する旨の意思表示をするが、右意思表示は、契約成立過程の性質上、最終的に支払可能であることを確認した後に作成される金銭消費貸借契約書における署名・押印においてされる。
(2) 被告大東京及び被告ダイエーは、本件協定書の締結を通じて被告五輪建設に対し、本件ホテルオーナーズシステム加入契約の申込み、締結手続等をする権限を付与又は追認した。
(3) 本件ホテルオーナーズシステム加入契約の内容は、顧客がホテルの共有持分を購入し、これを被告五輪ランドに賃貸するとの名目下に一口つき一定の頭金(典型的には一六〇万円)と毎月の負担金を出資することにより、一〇年後には最低一一六〇万円の払戻しを受けることができるというものである。
被告らは、顧客に対する関係でそれぞれが内部的な業務分担をするので、一〇年後の払戻義務については被告五輪建設が、定額配当支払義務(年三六万円の賃料の支払)については被告五輪ランドが、それぞれ第一次的な事実上の履行担当者であるが、右のような契約の性質上、被告らは、顧客に対し、共同事業者として本件ホテルオーナーズシステムに関する一切の債務を連帯して負担する関係にある。
(4) 本件ホテルオーナーズシステム加入契約を全体として一個の契約と捉える根拠は、次のとおりである。
ア 被告らは、二1に記載した事業を全体として「ホテルオーナーズシステム」と命名しており、単なるホテル持分の売買、その資金調達方法及びホテル持分の賃貸借とする分離した捉え方をしていない。
イ 被告五輪建設の従業員は、本件ホテルオーナーズシステム加入契約勧誘の際、本件ホテルオーナーズシステムは融資(ローン・保証)部門を含めて全体として一つの利殖システムであると説明し、ローンの利用を希望しない顧客に対しては、ローン利用を半ば強要した。
ウ 各原告は、本件ホテルオーナーズシステムについて、被告五輪建設従業員の説明内容を信じ、融資部門を含めて全体として一つの利殖システムと考えてこれに加入した。
エ 本件持分一口分の不動産としての価格は、本件ホテルオーナーズシステム一口に加入するために必要な金額(八〇〇万円)の五分の一以下であった。したがって、各原告と被告五輪建設との契約が単なる不動産売買契約であったならば、暴利行為として無効とされるような内容であり、利殖目的システムへの加入でなければ契約は成立しない。
オ 本件ホテルオーナーズシステムにおいては、契約書に記載された物件と移転登記を経由した物件とが一致していない。すなわち、本件ホテルオーナーズシステムにおいては、売買契約とは異なって目的物の特定が必要とされなかった。
カ 本件ホテルオーナーズシステムは、手持資金の少ない顧客を対象として、一〇年後に出資額の二倍以上の金額を払い戻す利殖システムであり、ローンの使用が当然に予定されていた。
本件ホテルオーナーズシステムの売買契約書添付の重要事項説明書には、売買、賃貸借、ローンが一体的なものとして予定され、金銭消費貸借証書にも、被告五輪建設が原告らの代理受領人として、被告大東京からの借入金受領のための銀行口座を決定すると記載されている。
また、被告五輪建設、被告大東京及び被告ダイエーの間で締結された本件協定書でも融資(ローン、保証)部門の存在が予定されている。
キ 本件ホテルオーナーズシステム加入契約の締結に際し形式的に取り交わされる各契約書の作成、提出は、被告五輪建設がすべて一括して行った。
ク 平成三年一二月二五日被告五輪建設が倒産した後、五輪建設の従業員は、原告らの問い合わせに対し、被告ダイエーには話を通してあるから、支払を停止するように回答した。これは、被告五輪建設が、被告ダイエー及び被告大東京から契約締結権限を付与されていたことを示している。
(5) 契約締結
各原告は、平成元年から平成三年ころまでにかけて被告五輪建設の従業員の指示に従い別紙ホテルオーナーズシステム契約内容表記載のとおり被告らとの間で本件ホテルオーナーズシステム加入契約を締結した。なお、右契約の契約締結日は、各個別契約書を一括して作成した場合はその年月日とし、そうでない場合は最終的な契約書の作成が完了した年月日とした。
(二) 予備的法律構成
仮に各原告と被告らが締結した契約を一個の契約と把握することができないとしても、これらの各個別契約は、相互に密接な関連性を持つ一体的な契約である。
(1) 各原告と被告らとの契約内容
各原告は、被告五輪ランド、被告大東京及び被告ダイエーから一〇年後の買戻特約等について権限を付与された被告五輪建設の勧誘・説明によって、被告らと別紙個別契約特定資料1(売買)、同2(賃貸借)、同3(金銭消費貸借)、同4(保証委託)各記載のとおり契約を締結し(以下、右各個別契約をそれぞれ「本件売買」、「本件賃貸借」、「本件消費貸借」、「本件保証委託」といい、これらを総称して「本件各個別契約」という。)、さらに、被告五輪建設との間では、一〇年後には最低一一六〇万円で買戻しを受けることができるとの覚書(以下「本件覚書」という。)も取り交わした。本件ホテルオーナーズシステムは、本件各個別契約が緊密に結びついて全体として不可分一体の権利義務関係を構成するものである。
(2) 本件各個別契約の締結により、各原告に対し、被告五輪建設は、本件持分の所有権移転義務、所有権移転登記義務及び一〇年後の最低一一六〇万円での本件持分の買戻義務を負い、被告五輪ランドは、賃料支払義務を負う。
しかし、各原告が被告らと締結した本件各個別契約は、それぞれが緊密に結びつき全体として本件ホテルオーナーズシステムという不可分一体の権利義務関係を構成するとともに、相互に他の契約の成立及び履行を当然の前提として全体として一つのシステムを成し、各当事者もこのような実質を十分認識していた。また、原告らが、単一の相手方と代金の長期分割払という約定の下で売買、賃貸借をしていたとすると当然主張することができる事由(例えば、同時履行の抗弁権や債務不履行解除など)を複数の契約を締結したために主張することができなくなるのは不均衡である。特に、被告大東京及び被告ダイエーは、本件ホテルオーナーズシステムが一〇年後の高額なキャピタルゲインの獲得を中心とした射倖性と投機性に富み、経済的実体からはかなり危険な金融商品であることを知りながら、これにより利益を受けるために被告五輪建設の本件ホテルオーナーズシステムの販売に対して与信業務を通じて参加した。被告大東京及び被告ダイエーが参加しなければ、本件ホテルオーナーズシステムを販売することは不可能であり、原告らも強引な勧誘により本件ホテルオーナーズシステムに参加することはなかった。その意味で、被告大東京及び被告ダイエーの責任は、一般消費者である原告らとの関係では被告五輪建設と何ら異ならない。
したがって、被告らが協定書を締結し共同事業としてそれぞれがその役割を分担した一体的関係からみて、被告大東京及び被告ダイエーは、本件ホテルオーナーズシステムに関する一切の債務・責任を被告五輪建設と連帯して負担する。
3 履行状況
(一) 本件持分の代金支払義務
各原告は、被告五輪建設に対し、本件持分の売買について、別紙個別的支払金額表記載のとおりそれぞれ頭金を支払い、残金につき被告大東京からの借入金によって代金全額を支払った。
(二) 本件持分の移転登記
被告五輪建設から原告らに対する本件持分の移転登記は完了しており、本件持分の移転登記と同時に被告大東京のために抵当権設定登記が経由された。
(三) ホテル賃料支払
被告五輪ランドは、各原告に対し、別紙賃料入金表記載のとおりホテル賃料を支払ったが、被告五輪建設が平成三年一二月二五日倒産した以降は、各原告の再三にわたる請求にもかかわらず賃料を一切支払わない。
(四) ローン支払
各原告は、被告大東京に対し、別紙個別的支払金額表記載のとおりローンを支払ったが、被告五輪建設が平成三年一二月二五日に倒産した後被告五輪ランドの各原告に対するホテル賃料支払が停止したので、ローンの支払を停止した。
(五) 諸費用支払
各原告は、別紙個別的支払金額表記載のとおり諸費用を支払った。
4 責任原因
(一) 出資法違反
本件ホテルオーナーズシステムのサクセス1(以下「サクセス1」という。)は、次のとおり、出資法一条及び二条一項に違反するものであり、右違反は、一般消費者の利殖に対する自然発生的な欲望に不当に付け込む点で公序良俗に違反する。したがって、本件ホテルオーナーズシステム加入契約は、全体として無効である。又は、各原告と被告五輪建設との間の本件売買は公序良俗違反により無効であり、本件売買と不可分一体の関係にあるその他の本件各個別契約も公序良俗違反により無効である。
(1) 出資法一条違反
サクセス1は、一〇年後に二倍以上の金額を払い戻すことを内容とする一個又は不可分一体の関係にある数個の契約である。被告らは、右内容を新聞ちらしやダイレクトメール等により不特定多数人に対し明示して勧誘した。その結果、被告らは、各原告から別紙個別的支払金額表記載のとおり出資金を受け入れた。被告らの右出資金の受入れは、出資法一条に違反する。
(2) 出資法二条一項違反
被告五輪建設は、本件持分の売買契約において、一口八〇〇万円の金員を各原告から受領し、一〇年後に本件持分の買戻しの形で一口一一六〇万円を原告らに対し払い戻すことを約している。これは、被告五輪建設が法律上の資格がないのに定期預金のような預り金業務を行っていることを意味する。被告五輪建設の右行為は、出資法二条一項に違反する。被告五輪ランド、被告大東京及び被告ダイエーは、被告五輪建設の右預り金について共同事業として加担した。
(二) 貸金業法違反
本件ホテルオーナーズシステムにおける被告大東京の融資及び被告ダイエーの保証は、貸金業法一二条、一三条及び一七条にそれぞれ違反し、貸金業に関する社会的秩序に著しく反するので、本件ホテルオーナーズシステム加入契約は、公序良俗に違反して全体として無効である。又は、各原告と被告大東京との間の本件消費貸借及び各原告と被告ダイエーとの間の本件保証委託は、公序良俗違反により無効であり、これらの契約と不可分一体の関係にある他の本件各個別契約も無効である。
(1) 貸金業法一二条違反
本件ホテルオーナーズシステムにおいては、<1>被告五輪建設が顧客の信用調査及び融資申込斡旋を行い、融資に関する通知・書類の提出についても被告五輪建設を経由するものとされていたこと、<2>融資・保証等の契約内容については、あらかじめ被告ら間で協議することとされていたこと、<3>融資契約締結の窓口は、被告五輪建設とされ、各原告は、融資の条件、内容につき被告大東京及び被告ダイエーとの間で直接の話合いをしたことがないこと、<4>被告五輪建設は、融資の対象者である各原告からの債権回収手続に協力し、融資斡旋について責任を負うとされていたこと等によれば、被告五輪建設は、実質上、被告大東京及び被告ダイエーの名義を借りて融資業務を行ったということができる。よって、本件消費貸借及び本件保証委託は、貸金業法一二条に違反する。
(2) 貸金業法一三条違反
被告大東京の各原告に対する融資は、一般消費者に対し原則として六四〇万円を貸し付けるものであり、一般消費者に対する貸付金としては社会通念上高額であり、加えて、<1>被告大東京が顧客の信用調査を被告五輪建設に任せきりにしていたこと、<2>各原告の資力、収入状態では、ホテル賃料の支払なくしてローンの支払を継続することができなかったこと、<3>抵当物件たる本件持分の客観的な市場価値は、非常に低いこと、<4>本件ホテルオーナーズシステム加入契約の締結後一年ないし二年のうちに被告五輪建設が倒産し、原告らに対するホテル賃料の支払が停止し、原告らのローンの支払が不可能になったこと等を考慮すると、被告大東京の各原告に対する融資は、貸金業法一三条に違反する過剰融資である。
(3) 貸金業法一七条違反
各原告は、被告大東京から融資を受け、被告ダイエーに保証委託をするに際し、貸金業法一七条に定める書類を一切交付されなかった。
(三) 錯誤無効
各原告の本件ホテルオーナーズシステムに加入する際の意思表示には、要素の錯誤がある。したがって、本件ホテルオーナーズシステム加入契約は、全体として無効である。又は、各原告と被告らとの間の本件各個別契約は、錯誤により無効である。
(1) 契約締結の動機
各原告は、<1>一〇年後に最低一一六〇万円の払戻しを受けられること、<2>年間三六万円の賃料収入をローンの支払に充てれば手持資金で毎月のローンの支払が可能となること等から、本件ホテルオーナーズシステムに加入した。
各原告は、<1>及び<2>が本件ホテルオーナーズシステムに加入する主たる動機であると被告らに明示して被告らと契約を締結した。
(2) 被告らは、(1)の<1>及び<2>の事項を本件ホテルオーナーズシステムのセールスポイントとしていた。また、各原告は、(1)の<1>及び<2>の事項を実現することができないならば、被告らと契約を締結することはなかった。
したがって、(1)の<1>及び<2>の事項は、各原告と被告らとの間の契約の要素である。
(3) 平成三年一二月二五日被告五輪建設は倒産し、被告五輪ランドも各原告に対するホテル賃料の支払を停止した。したがって、一〇年後の一一六〇万円での本件持分の買戻し及び年間三六万円のホテル賃料の支払はいずれも実現しないことが明らかになった。
(4) 被告五輪建設が各原告との契約締結後間もなく倒産したことからすると、各原告との契約締結時点における被告五輪建設の客観的な資金繰り状態によれば、被告五輪建設が一〇年後に本件持分一口当たり一一六〇万円で買い戻すことや、被告五輪ランドが一〇年間継続して賃料を支払うことは客観的に不可能であった。
(5) したがって、各原告が契約締結時に被告らに対し明示した動機は、既に契約締結時点において実現不可能なものであったのであり、各原告の意思表示には要素の錯誤があるから、本件ホテルオーナーズシステム加入契約又は本件各個別契約は、民法九五条により無効である。
(四) 詐欺に基づく契約の取消し
(1) 被告五輪建設は、各原告の本件ホテルオーナーズシステム加入契約締結後間もない平成三年一二月二五日倒産した。
被告五輪建設は、五輪グループの中心であり、各原告が本件ホテルオーナーズシステムに加入した時点において、既に自社の資金繰りの状態からみて、<1>一〇年後に本件持分を一口一一六〇万円で買い戻すこと(以下「<1>の買戻し」という。)、<2>各原告に対し一〇年間継続して賃料を支払うこと(以下「<2>の賃料支払」という。)が不可能であることを認識していた。
また、本件ホテルオーナーズシステムへの加入による各原告の節税効果は毎年減少し、各原告の毎月のローン負担額は毎年上昇するにもかかわらず、被告五輪建設は、各原告に対し、<3>契約締結から一〇年間にわたり毎月一定の少額のローン負担で済むこと(以下「<3>のローン負担」という。)を説明して勧誘した。
被告五輪建設は、本件ホテルオーナーズシステムへの加入につき顧客を募集し、<1>の買戻し、<2>の賃料支払及び<3>のローン負担を確約して各原告をしてこれらが実現するものと誤信させ、出資金を集めた上顧客募集がほぼ限界状態になったところで会社を倒産させた。
(2) 被告五輪ランド、被告大東京及び被告ダイエーも、共同事業者として本件ホテルオーナーズシステムに参加した以上、被告五輪建設の右詐欺について連帯して責任を負う。
(3) よって、各原告は、被告らに対し、平成五年一二月九日送達の本件訴状をもって、被告五輪建設の詐欺に基づき本件ホテルオーナーズシステム加入契約又は被告五輪建設との間の本件売買及びこれと密接不可分の関係にある本件各個別契約を取り消す旨の意思表示をした。
(五) 契約の解除
(本件ホテルオーナーズシステムの主位的法律構成を前提とした場合)
(1) 本件持分買戻債務に関する履行不能
被告五輪建設は、各原告に対し、本件ホテルオーナーズシステム加入契約の内容として、右契約から一〇年経過した後に本件持分を一口一一六〇万円で買い戻す債務を負っており、右債務は、右契約の要素であった。
しかし、被告五輪建設は平成三年一二月二五日倒産し、右債務は履行不能になった。
よって、各原告は、被告らに対し、平成五年一二月九日送達の本件訴状をもって、被告五輪建設の履行不能に基づき本件ホテルオーナーズシステム加入契約を全部解除する旨の意思表示をした。
(2) ホテル賃料支払債務に関する債務不履行
被告五輪ランドは、原告らに対し、本件ホテルオーナーズシステム加入契約の内容として年間三六万円のホテル賃料(実質は配当金)を支払う債務を負っており、右債務は、右契約の要素であった。
しかし、被告五輪ランドは、被告五輪建設が平成三年一二月二五日倒産した後、各原告の再三にわたる請求にもかかわらず賃料支払債務を履行しない。
よって、各原告は、被告らに対し、平成五年一二月九日送達の本件訴状をもって、被告五輪ランドが約二年間にわたりホテル賃料支払債務を履行していないこと及び被告五輪建設が倒産したことにより各原告と被告らとの間の信頼関係が完全に破壊されたことから、本件ホテルオーナーズシステム加入契約を全部解除する旨の意思表示をした。
(本件ホテルオーナーズシステムの予備的法律構成を前提とした場合)
(1) 被告五輪建設の債務不履行
被告五輪建設は、各原告に対し、本件売買から一〇年経過した後に本件持分を一口一一六〇万円で買い戻す債務を負っていた。
しかし、被告五輪建設は平成三年一二月二五日倒産し、右債務は履行不能となった。
したがって、原告らは、被告五輪建設に対し、平成五年一二月九日送達の本件訴状をもって、本件売買を解除する旨の意思表示をした。
(2) 被告五輪ランドの債務不履行
被告五輪ランドは、原告らに対し、年間三六万円のホテル賃料を支払う債務を負っていた。
しかし、被告五輪ランドは、被告五輪建設が平成三年一二月二五日倒産した後、各原告の再三にわたる請求にもかかわらず賃料支払債務を履行しない。
したがって、原告らは、被告五輪ランドに対し、平成五年一二月九日送達の本件訴状をもって、本件賃貸借を解除する旨の意思表示をした。
(3) 被告大東京及び被告ダイエーの債務不履行
ローン提携販売等における買主の売主に対する代金支払債務は、与信業者のローン契約に基づく立替払により消滅し、これに代わって与信業者と買主との間で締結された与信契約に従い、買主は与信業者に対して与信債務を新たに負うという外観が生じる。
しかし、買主は、提携ローンによる場合でも代金債務に対して対価的意義のある給付が債務不履行となったときには金銭債務を基礎付ける契約を解除することができるとの意思を有しているし、与信業者にとっては、ローン提携をした売主の販売行為は与信業務の手段であり、売主は与信業務の補助者の地位にある。他人を補助者として利用して自己の契約事業の拡大を図る者はその補助者が第三者との契約で定められた義務を尽くさない場合、信義則上、その第三者に対する関係で何らかの責任を負うべきである。与信業者は、売主が買主に対して負う債務をもカバーする地位に立つ、あるいは売主の債務に準ずる債務を負うというべきである。
したがって、被告大東京及び被告ダイエーは、各原告に対し、本件ホテルオーナーズシステムが被告五輪建設の経営状態、本件持分の市場性が皆無に近いため被告五輪建設の買戻しだけが原告らの利益実現の唯一の方法であるというリスクの大きなシステムであること及び本件持分の実質上の価値と販売価格とが著しく不均衡であることにつき調査確認する債務を負っていた。
また、被告大東京及び被告ダイエーは、右の事情につき容易に知り得べき立場にあったから、被告五輪建設の経営が破綻した場合には顧客が多大な危険にさらされることについて顧客である各原告に対し説明すべき債務を負っていたにもかかわらず、これを怠った。
さらに、被告大東京及び被告ダイエーは、被告五輪建設及び被告五輪ランドが買戻義務及び賃料支払義務について履行していないことから、右債務を履行する義務を負うにもかかわらず、これを怠った。
したがって、各原告は、平成五年一二月九日送達の本件訴状をもって、被告大東京に対し本件消費貸借を、被告ダイエーに対し本件保証委託をそれぞれ解除する旨の意思表示をした。
(六) 被告らの連帯責任性
(1) 本件ホテルオーナーズシステムにおける本件各個別契約は、相互に有機的に結合して、それぞれ独立して意義を有するものではなく、不可分一体関係にある。
(2) 各原告は、被告五輪建設の従業員から、本件ホテルオーナーズシステムは、被告ダイエーの保証を前提に、被告大東京からローンを受け、各原告の自己資金と合わせ被告五輪建設から本件持分を一〇年後の買取り特約付きで購入し、被告五輪ランドから支払われる賃料を被告大東京への返済資金に充てることが自己資金の少ない者でも購入することができる金融商品であると説明された。
このように、各原告は、本件ホテルオーナーズシステムは、本件持分の単純な売買に伴う別個独立の契約ではなく、各個別契約が相互に密接に関連し、どれが欠けても成立しないというシステムの一体性を強調する説明を受けた。これにより原告らは本件ホテルオーナーズシステムを不可分一体の利殖手段であると認識した。
(3) 本件ホテルオーナーズシステムに関する勧誘、融資申込み、契約書作成等の契約締結に至る手続は、すべて被告五輪建設が行っていたのであり、本件ホテルオーナーズシステムに関する契約は、手続上も一体性を持つものとして締結されている。
(4) 以上によれば、被告らは、各原告に対し、本件ホテルオーナーズシステムに関する一切の債務・責任を共同事業者として連帯して負担する関係に立つ。
(5) よって、各原告は、被告らに対し、本件ホテルオーナーズシステム加入契約又は本件各個別契約の無効若しくは取消しによる不当利得返還請求権又は解除による原状回復請求権に基づき、連帯して別紙個別的支払金額表記載の支払合計額から別紙賃料入金表記載の合計入金額を控除した残額である別紙請求金額目録記載の請求金額及びこれに対する本件訴状送達の日の翌日である平成五年一二月一〇日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
(七) 被告らの共同不法行為
(1) 被告五輪建設の不法行為(民法四四条、七一五条)
ア 出資法違反の本件ホテルオーナーズシステム自体の欠陥、違法性
本件ホテルオーナーズシステムは、出資法に違反している上、ホテル共有持分という市場性のないものの値上がりを前提に高額の買取保証をしている点、当時の不動産価格に比しても異常に高額の価格設定をしている点及び合理性のない賃料収入(配当金額)を保証している点でバブル崩壊により破綻するおそれが強い違法な事業である。
被告五輪建設は、右違法行為について故意又は過失がある。
イ 説明の違法性
被告五輪建設は、昭和六三年から平成二年ころまでに、財務状態が悪化して銀行等の金融機関からの正常な融資が困難となり、債務の支払などの資金繰りが厳しい状況下にあったため、平成元年ころには資金繰りに窮して国税・都税等の公租公課の支払も滞納している状態にあった。それにもかかわらず、被告五輪建設は、各原告に対し、被告五輪建設が優良企業であり、倒産の心配はなく、仮に倒産しても各原告に迷惑をかけることはないなどと虚偽又は誤った説明をした。
また、被告五輪建設は、ホテル経営と金融取引に疎く適切な判断をすることができない各原告に対し、本件ホテルオーナーズシステムがバブル崩壊により倒産する危険が高いにもかかわらず、安心確実な金融商品であるなどと虚偽又は誤った説明をした。
ウ 被告五輪建設による右各違法行為の結果、各原告は、被告らとの間に本件ホテルオーナーズシステム加入契約又は本件各個別契約を締結し、被告五輪建設に対し、売買代金名下に金員を支払った。
(2) 被告五輪ランドの不法行為(民法四四条、七一五条、七一九条)
被告五輪ランドは、被告五輪建設から顧客の本件持分の運用を担うという役割を与えられて本件ホテルオーナーズシステムの事業(以下「本件事業」という。)に参加した。
被告五輪ランドは、本件持分一口につき月額三万円の賃料名目の配当金の支払をすることが客観的に不可能であるにもかかわらず、被告五輪建設とともに月額三万円の賃料支払が可能であるかのように装って顧客への宣伝勧誘の材料にするという違法行為を行った。
被告五輪ランドは、右の違法行為について故意又は過失を有していた。
その結果、各原告は、被告五輪建設に対し、売買代金名下に金員を支払った。
被告五輪ランドは、五輪グループに属する会社であり、実質的には被告五輪建設の子会社であること、本件ホテルオーナーズシステムの商品化、宣伝、販売に一貫して関与してきたことから、被告五輪建設と共謀して本件事業を遂行した。
(3) 被告大東京及び被告ダイエーの不法行為(民法四四条、七一五条、七一九条)
ア 本件ホテルオーナーズシステムは、専門家から見れば必然的に破綻することが明らかな事業であるから、被告大東京及び被告ダイエーは、本件事業に対しローン又は保証を付すべきではなかった。したがって、被告大東京及び被告ダイエーには、融資拒絶義務違反があった。
イ 被告大東京及び被告ダイエーは、被告五輪建設との間で本件協定書を締結する以前の調査及び交渉により本件事業の全貌を十分に理解することができる立場にあり、また、本件事業がローンを前提とする自己資金の乏しい者を対象にした金融商品であり、顧客が本件商品を購入するにはローンが決定的な意味を有することを十分に理解していた。
被告大東京及び被告ダイエーは、本件ホテルオーナーズシステムに自らが関与するに当たり融資目的がどのような内容の商品であるかを十分に調査した上、顧客に対し、契約締結前に十分な情報を提供し、本件ホテルオーナーズシステムに内在する危険性を説明する信義則上の義務を負っており、特に、<1>被告五輪ランドから顧客へ支払われる月額三万円の賃料名目の配当金の支払が今後一〇年間にわたって現実的に可能なのかどうかを調査すべき義務、<2>被告五輪建設による一〇年後の本件持分の一口一一六〇万円による買取保証が現実に可能なのかどうかを調査すべき義務があり、これらの調査結果を顧客に提供し、説明する義務があった。
ところが、被告大東京及び被告ダイエーは、本件協定書に基づき顧客との契約締結を専ら被告五輪建設に委ね、自らは事後承認的に処理することによって、右<1>及び<2>の義務の履行を怠った。
ウ 被告大東京及び被告ダイエーの右の義務違反の結果、各原告は、被告五輪建設に対し、売買代金名下に金員を支払った。
エ 被告大東京及び被告ダイエーは被告五輪建設との間で本件協定書を締結しているから、被告大東京、被告ダイエー及び被告五輪建設の間には、共謀又は共同行為の認識があった。
(4) 以上によれば、被告五輪建設、被告五輪ランド、被告大東京及び被告ダイエーは、それぞれが単独でも不法行為責任を負うものであるが、本件事業への関与を通じて共同不法行為を行ったと評価することができる。
したがって、各原告は、被告らに対し、共同不法行為に基づき、連帯して別紙個別的支払金額表記載の支払合計額から別紙賃料入金表記載の合計入金額を控除した残額である別紙請求金額目録記載の請求金額及びこれに対する本件訴状送達の日の翌日である平成五年一二月一〇日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
三 被告らの主張
1 被告五輪建設及び被告五輪ランド
(一) 各原告と被告らとの間の契約が一個の複合的性格を有する無名契約であるとの主張及び各原告と被告らとの間の本件各個別契約が相互に密接な関連性を持つ一体的な契約であるとの主張は、いずれも争う。
各原告と被告五輪建設が本件覚書を締結したことは、認める。被告五輪建設がローン利用を希望しない者に対しローン利用を強要したことは、否認する。
各原告が被告五輪建設に対し別紙個別的支払金額表記載のとおり頭金を支払ったことは、認める。
(二) 本件各個別契約に関する認否
(1) 別紙個別契約特定資料1(売買)
ア 原告番号1(甲野花子)
締結日は、平成三年三月二二日である。
イ 原告番号23(乙山太郎)
締結日は、平成三年二月八日である。
ウ 原告番号24(丙川松夫)
締結日は平成二年一一月二七日、目的物件・持分割合は麻布七〇四・一四分の一、代金額は八〇〇万円、残代金支払期日は平成二年一二月末日である。
エ 原告番号29(丁原竹夫)
締結日は不知、目的物件・持分割合は麻布七〇五・一四分の一、残代金支払期日は平成三年三月末日である。
オ その余は、認める。
(2) 別紙個別契約特定資料2(賃貸借)
ア 原告番号23(乙山太郎)
締結日は、平成三年二月八日である。
イ 原告番号24(丙川松夫)
締結日は平成二年一一月二七日、賃料は三六万円、賃貸期間は平成三年一月一日から平成一二年一二月三一日までである。
ウ 原告番号29(丁原竹夫)
締結日は、知らない。
エ その余は、認める。
(3) 別紙個別契約特定資料3(金銭消費貸借)
ア 利息
契約当初、利息は、すべて年八・一パーセントとする旨の約定があった(ただし、変動利率特約がある。)。
なお、右利息のほか、被告大東京を経由して、年二・〇パーセントの保証料が被告ダイエーに支払われることになっていた。
イ 毎月返済額
初回返済額は、端数調整のためそれ以降の返済額と異なる(一月及び七月の加算額があるものについては、最初の一月又は七月の返済額もそれ以降の返済額と異なる。)。
ウ 原告番号7(戊田梅夫)
締結日は、平成二年一二月二五日である。
エ その余は、認める。
(4) 別紙個別契約特定資料4(保証委託)
ア 保証料
契約書中に「保証料」についての記載がないことは、認める。
ただし、各原告と被告ダイエーとの間において、年二・〇パーセントの保証料を被告大東京を経由して被告ダイエーに支払う旨の合意が成立していた。
イ その余は、認める。
(三) 責任原因の主張は、争う。
2 被告大東京
(一) 各原告と被告らとの間の契約が一個の複合的性格を有する無名契約であるとの主張は、争う。
被告大東京は、被告五輪建設に対し、一〇年後に本件持分を一口一一六〇万円で買い戻すことを承諾したことはなく、また、本件覚書が存在することも本件訴訟に至るまで知らなかった。
本件持分の売買において、頭金をいくらとするか、又は残代金についてローンを利用するか否かは、各原告が決めたことである。被告五輪建設は、ローンを利用することができることを紹介しているが、ローン会社を斡旋することを義務付けられていたわけではない。
(二) 被告大東京は、本件ホテルオーナーズシステムについての共同事業者ではない。
本来共同事業者といえるためには、事業の重要事項につき共同・協力関係がなくてはならない。本件では、首都圏にホテルを建設し、ホテル事業を展開することが事業の本体であり、これは被告五輪建設とその傘下の五輪グループがすべて仕切ったものである。本件ホテルオーナーズシステムは、五輪グループが開発したものであり、被告大東京は、他の金融機関に追従して五億八〇〇〇万円の融資を分担したにすぎない。
被告大東京、被告ダイエー及び被告五輪建設が締結した本件協定書は、通常の提携ローンにおける協定書と何ら異ならない。本件協定書は、融資に限定した事務レベルの協定である。
さらに、被告大東京が融資を開始した平成二年一二月二〇日の時点で、原告らのうち六名を除く各原告は、既に被告五輪建設との間で本件持分の売買契約の締結と頭金の支払を済ませていた。
以上によれば、本件ホテルオーナーズシステムが被告大東京と各原告との間の消費貸借契約を含む一個の契約であるとか一体の契約であるとする原告らの主張は、理由がない。
(三) 本件各個別契約に関する認否
(1) 別紙個別契約特定資料1(売買)
ア 原告番号11(甲田春夫)
締結日は、平成二年九月三〇日である。
イ 原告番号23(乙山太郎)、原告番号24(丙川松夫)及び原告番号29(丁原竹夫)
被告五輪建設及び被告五輪ランドの主張(三1(二)(1)イ、ウ、エ)と同じ。
ウ その余は、認める。
(2) 別紙個別契約特定資料2(賃貸借)
いずれも知らない。
(3) 別紙個別契約特定資料3(金銭消費貸借)
ア 利息
契約当初、利息はすべて年一〇・一パーセントとする旨の約定があった(ただし、変動利率特約があり、最低は年七・七パーセントであった。)。
イ 毎月返済額
被告五輪建設及び被告五輪ランドの主張(三1(二)(3)イ)と同じ。
ウ 原告番号7(戊田梅夫)
被告五輪建設及び被告五輪ランドの主張(三1(二)(3)ウ)と同じ。
エ 原告番号15(乙野夏夫)
毎月返済額のうち一月及び七月分の加算額は、二〇万〇七一二円である。
オ その余は、認める。
(4) 別紙個別契約特定資料4(保証委託)
いずれも知られない。
(四) 責任原因の主張について
本件消費貸借には、何ら無効、取消し、解除事由はない。また、各原告が被告五輪建設に対して主張することができることが、そのまま被告大東京に対して主張することができるわけではない。
(1) 出資法二条一項違反
各原告と五輪建設との契約はホテル客室ないし店舗の持分売買契約であるから、右契約により授受された金員は、預り金ではない。
仮に右金員が預り金に当たるとしても、その授受が直ちに公序良俗に違反する行為となるわけではなく、また、各原告と被告大東京との間の本件消費貸借及び抵当権設定契約は、有効である。
さらに、各原告と被告大東京との間の契約が無効になるとしても、被告大東京は、各原告から頭金相当額を受領していないから、その部分については利得がない。
(2) 貸金業法違反
各原告に対する被告大東京の融資は、保険業法に根拠があり、被告大東京は、貸金業法の適用対象ではない。また、提携ローンでは、消費貸借契約締結に際し、販売業者が融資者に代わって事務手続を行うことが一般に行われている。
(3) 債務不履行及び不法行為
融資の目的、対象が明らかに違法であるか、又は当然それに気付くべき場合でなければ、原告らの主張する調査説明義務は生じない。したがって、被告大東京には原告らが主張するような注意義務違反の事実はなく、被告大東京は、債務不履行及び不法行為の責任を負わない。
3 被告ダイエー
(一) 各原告と被告らとの間の契約が一個の複合的性格を有する無名契約であるとの主張及び本件各個別契約が相互に密接な関連性を持つ一体的な契約であるとの主張は、いずれも争う。
(二) 本件各個別契約についての認否
(1) 別紙個別契約特定資料1(売買)
いずれも認める。
(2) 別紙個別契約特定資料2(賃貸借)
いずれも認める。
(3) 別紙個別契約特定資料3(金銭消費貸借)
ア 利息
被告五輪建設及び被告五輪ランドの主張(三1(二)(3)ア)と同じ。
イ 毎月返済額
被告五輪建設及び被告五輪ランドの主張(三1(二)(3)イ)と同じ。
ウ 原告番号7(戊田梅夫)
被告五輪建設及び被告五輪ランドの主張(三1(二)(3)ウ)と同じ。
エ その余は、認める。
(4) 別紙個別契約特定資料4(保証委託)
ア 保証料
被告五輪建設及び被告五輪ランドの主張(三1(二)(4)ア)と同じ。
イ その余は、認める。
(三) 責任原因の主張について
(1) 出資法二条違反
被告五輪建設と各原告との間の本件売買は、出資法二条に違反しない。不特定かつ多数の者からの金銭の受入れで元金相当額の返還が約束されているとしても、これが直ちに出資法二条に違反するものではない。
各原告と被告五輪建設との間の本件売買は、パンフレット等において一戸当たりの総代金額や総口数が明示されており、応募者が適宜提供する金銭を無制限に受け入れたものではなく、投資期間も一〇年と金融商品には見られない長期にわたるものであり、不動産への投資としての性質を強く持っていた。
仮に被告五輪建設の行為が出資法に違反するとしても、これが直ちに各原告と被告大東京との間の本件消費貸借及び各原告と被告ダイエーとの間の本件保証委託を無効とするわけではない。
仮に本件消費貸借及び本件保証委託が無効になるとしても、被告ダイエーは、各原告から頭金相当額を受領していないから、その部分については利得がない。
(2) 不法行為
被告ダイエーには、各原告の損害に対して因果関係を有する結果回避義務違反の事実がなく、不法行為責任は成立しない。
(個別事件)
四 被告ダイエーの請求原因
1 金銭消費貸借契約
被告大東京は、別紙一〇一ないし一四五記載の各<1>欄の原告に対し、同<2>欄の日に同<3>欄の金額を次の約定により貸し付ける旨約し、同<4>欄の日に貸し付けた。
(一) 返済方法 同<5>欄の方法
(二) 利率 主位的主張 月利〇・六七五〇パーセント(年利八・一パーセント)
予備的主張 月利〇・八四一七パーセント(年利一〇・一パーセント)
ただし、利率は、主位的主張及び予備的主張ともに被告大東京における長期貸出最優遇金利(以下「基準金利」という。)を基準とし、貸付日における基準金利と貸付年利率との差を乖離利率として、毎年一〇月一日現在の基準金利に乖離利率を加算した率をもって、翌年一月一日以降の期間に適用する。
本件における貸付日現在の基準金利は同<6>欄のとおりであるところ、主位的主張に係る利率の乖離利率は同<7>欄のとおりであり、予備的主張に係る利率の乖離利率は同<7>欄の数値に二・〇を加算した数値である。
また、平成三年一〇月一日における基準金利は、年五・七パーセントである。
(三) 遅延損害金 年一四パーセント(年三六五日の日割計算)
(四) 期限の利益喪失約款
各原告が被告大東京に対する債務の一つでも期限に返済しなかったときは、各原告は、被告大東京からの通知・催告がなくても金銭消費貸借契約に基づく債務の全額について当然に期限の利益を喪失する。
(五) 費用負担
右金銭消費貸借契約に伴って締結された抵当権設定契約に基づく登記手続費用は、各原告の負担とする。
2 保証委託契約
各原告は、被告ダイエーに対し、別紙一〇一ないし一四五記載の各<2>欄の日に次の約定により右1記載の債務を各原告に連帯して保証することを委託し、被告ダイエーは、右委託に従い、同<4>欄の日に被告大東京との間で連帯保証契約を締結した。
(一) 求償債務の履行期
被告ダイエーが保証債務を履行したときは、各原告は、被告ダイエーに対し、その履行額を直ちに支払う。
(二) 遅延損害金
各原告が求償債務の履行を怠ったときは、各原告は、被告ダイエーに対し、求償債務額に対する年二九・二パーセントの割合による遅延損害金を支払う。
(三) 保証料
各原告は、被告ダイエーに対し、保証料として残元本に対する年二パーセントの割合による金員を同<5>欄の返済額に加算して支払う。
(四) 特約
(1) 被告ダイエーが保証債務の履行をする場合、各原告に対する事前の通知を要しない。
(2) 各原告が負担すべき費用を被告ダイエーが立て替えて支払ったときは、各原告は、被告ダイエーに対し、直ちにこれを支払う。
3 各原告の債務不履行
各原告は、被告大東京に対し、別紙一〇一ないし一四五記載の各[2]欄のとおり融資金を返済したが、その余の支払をしない。
4 代位弁済
被告ダイエーは、被告大東京に対し、別紙一〇一ないし一四五記載の各<21>欄の年月の各二七日に(ただし、別紙一四六記載の年月についてはそれぞれ同記載の起算日の前日に、同<21>欄の最終日については同日に)同<22>欄の金額を保証債務の履行として代位弁済した。その合計額は、同<28>欄のとおりである。
5 未払保証料
右代位弁済期間中の保証料は、別紙一〇一ないし一四五記載の各<27>欄のとおりであるところ、各原告は、これを支払わない。右未払保証料合計額は、同<29>欄のとおりである。
6 費用負担
被告ダイエーは、平成五年四月一六日、各原告が負担すべき登記費用である別紙一〇一ないし一四五記載の各<30>欄の金額を立替払した。
7 結論
よって、被告ダイエーは、各原告に対し、保証委託契約に基づき次の金員の支払を求める。
(一) 代位弁済額合計金(別紙一〇一ないし一四五記載の各<28>欄の金額)
(二) 未払保証料合計金(別紙一〇一ないし一四五記載の各<29>欄の金額)
(三) 立替費用(別紙一〇一ないし一四五記載の各<30>欄の金額)
なお、右(一)ないし(三)の合計額が別紙一〇一ないし一四五記載の各<31>欄の金額である。
(四) 各代位弁済額に対する各弁済の日の翌日から支払済みまで約定の年二九・二パーセントの割合による遅延損害金
(五) 未払保証料に対する弁済期の翌日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金
(六) 立替費用に対する弁済の日の後である平成五年四月一七日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金
五 原告らの主張
1 被告ダイエーの請求原因に対する認容
各原告は、被告らとの間で本件ホテルオーナーズシステム加入契約という一個の複合的性格を有する無名契約を締結したのであって、被告大東京と金銭消費貸借契約を締結したこと及び被告ダイエーと保証委託契約を締結したことはない。
2 抗弁
仮に、各原告が、被告大東京と金銭消費貸借契約を、被告ダイエーと保証委託契約をそれぞれ締結したとしても、各原告には、次のとおり被告ダイエーの求償金請求の履行を拒絶することができる正当事由がある。
(一) 基本事件における原告らの主張のとおり、右の金銭消費貸借契約及び保証委託契約は、出資法及び貸金業法に違反しており、公序良俗違反で無効である。また、右各契約は、錯誤によっても無効である。
(二) 基本事件における原告らの主張のとおり、被告大東京及び被告ダイエーには、調査義務違反、危険説明義務違反等の債務不履行がある。したがって、各原告は、被告大東京及び被告ダイエーの右各債務不履行を理由として、右の金銭消費貸借契約及び保証委託契約をいずれも解除する。
(三) 基本事件における原告らの主張のとおり、被告らは本件ホテルオーナーズシステムについて共同事業者である上、各原告と被告らが締結した本件各個別契約は、密接関連性を有しており、本件各個別契約は、履行における牽連性を有する。したがって、各原告は、被告五輪建設の買戻義務の不履行及び被告五輪ランドの賃料不払の各債務不履行を理由に、被告ダイエーに対する求償金返還義務の将来的な履行拒絶を主張する。
六 争点
1 基本事件
(一) 本件ホテルオーナーズシステムに関して締結された各契約は、全体として一個の契約又は一体的な契約と評価することができるか否か。
(二) 出資法違反の成否
(三) 貸金業法違反の成否
(四) 錯誤の成否
(五) 詐欺による取消しの成否
(六) 債務不履行解除の成否
(七) 被告五輪建設の債務不履行責任を被告五輪ランド、被告大東京及び被告ダイエーも共同で負担するか。
(八) 共同不法行為の成否
(1) 被告五輪建設の不法行為の成否
(2) 被告五輪ランドの不法行為の成否
(3) 被告大東京及び被告ダイエーの不法行為の成否
2 個別事件
(一) 請求原因事実の存否
(二) 抗弁の当否
第三 当裁判所の判断
(事実認定)
前記争いのない事実と《証拠略》によれば、次の事実が認められる。
一 当事者等
1 五輪グループ
五輪グループは、被告五輪建設を中心として、被告五輪ランド、五輪不動産販売株式会社、五輪ビル株式会社、五輪ファイナンス株式会社(以下「五輪ファイナンス」という。)及び株式会社オリエンタルホテルの六社で構成される企業グループである。
五輪グループは、平成二年五月ころまでには、都内を中心にオリンピック・インシリーズと称するマンションを三七棟建設してその分譲を手掛け、また、リゾートホテルであるオリンピック・イン妙高高原及びビジネスホテルである札幌オリエンタルホテルといったホテル経営を手掛けていた。
2 被告五輪建設
(一) 被告五輪建設は、昭和四七年八月三一日設立された土木建築工事の請負、一般土木並びに建築の企画設計及びその施行管理、上下水道工事の請負、不動産の売買、賃貸、仲介及びあっ旋、ホテル等の経営、管理等を目的とする株式会社であり、代表取締役は、竹内寿佐(以下「竹内」という。)である。
(二) 被告五輪建設は、昭和六三年七月当時、流動負債として未払法人税等二五〇〇万円を計上した。
(三) 被告五輪建設は、平成二年二月現在の年間売上高は一二億七八〇〇万円、従業員数は六〇名であり、業種別売上ランキングは全国一万三六五四社中三一五六位、都道府県別では四〇四一社中一三七八位であり、平成三年七月における資本の額は七億一七〇〇万円であった。
(四) 株式会社帝国データバンクは、平成二年現在において、被告五輪建設の信用程度はAないしEの五段階評価のうち中程度のCと評価し、その将来性については、ホテル分譲及び高齢者用のマンション経営の計画を推進中であり、現在の業況推移を勘案すれば期待は持てるものの、現状では資金投下が活発なため多忙状態であり、今後の営業展開の成功が鍵となっていると判断した。
(五) 平成二年一二月二〇日発行の週刊住宅は、被告五輪建設が早ければ平成五年三月に株式の店頭公開を行うと報じ、平成三年九月一九日発行の週刊住宅も、被告五輪建設が同年八月から株の店頭公開の準備を開始し、平成七年に公開を予定していると報じた。
(六) 平成三年一一月三〇日現在、被告五輪建設の金融機関等に対する負債総額は五一四億四四二四万四〇〇〇円であり、五輪グループの金融機関等に対する負債総額は八〇七億九六五七万三〇〇〇円であった。
(七) 平成三年一二月二五日、被告五輪建設は、不渡手形を出して倒産した。
被告五輪建設は、五〇〇億円を超える借入金を開発用土地取得等の不動産投資に充てていた。
3 被告五輪ランド
被告五輪ランドは、ホテル、旅館、ペンションの経営及びその管理等を業とし、本件各ホテルを経営していた株式会社である。
被告五輪ランドは、被告五輪建設代表取締役である竹内が代表取締役を務める被告五輪建設の一〇〇パーセント子会社であり、被告五輪建設の従業員が被告五輪ランドの従業員を兼務していた。
被告五輪ランドは、昭和五二年ころから、オリンピック・イン妙高高原というリゾートホテルを経営していた。
4 五輪ファイナンス
五輪ファイナンスは、本件ホテルオーナーズシステムの購入者へ融資をするために設立された株式会社で、その発行済株式総数のうち、七〇パーセントは被告五輪建設が、三〇パーセントは生泉興産株式会社がそれぞれ保有している。
五輪ファイナンスは、自己資金で融資するのではなく、生泉興産株式会社、大和ファイナンス株式会社、住友不動産ファイナンス株式会社等の金融機関からバックファイナンスを受け、その資金で融資をしていた。
5 被告大東京
被告大東京は、損害保険事業を営む株式会社であり、平成七年改正前の保険業法(以下「改正前保険業法」という。)一条二項五号の財産利用方法書において資産運用方法として融資を業として行うことを記載した上、同条一項の主務大臣の許可を受けたものであるところ、本件持分の購入者である各原告に対し頭金を除く購入代金を融資した。
6 被告ダイエー
被告ダイエーは、金銭の貸付、その代理及び貸借の媒介並びにその貸付の保証等を業とする株式会社であり、被告大東京の各原告に対する融資について各原告の委託を受けて連帯保証をした。
二 本件ホテルオーナーズシステム
1 本件ホテルオーナーズシステムの概要
(一) 本件ホテルオーナーズシステムは、竹内の発案に基づき被告五輪建設を中心とする五輪グループが事業化したものである。本件ホテルオーナーズシステムには、サクセス1とサクセス10の二種類があり、昭和六三年から販売が開始された。
なお、本件ホテルオーナーズシステムの販売を開始した昭和六三年当時、その提携金融機関は決まっていなかった。
(二) 本件ホテルオーナーズシステムの基本的な商品内容は、<1>顧客が、ホテルの敷地共有持分権を含む客室等の共有持分権を、一〇年後に被告五輪建設が購入価格を上回る価格(原告らの場合は、一口一一六〇万円)で買い取るとの保証約束の下に、被告五輪建設から一口八〇〇万円で購入すると同時に、<2>顧客が、右購入に係る共有持分権の対象たるホテル客室等を被告五輪ランドに対し、期間一〇年、賃料年三六万円・年二回分割払の条件で賃貸するものである。
サクセス1の場合、顧客が頭金を除く購入代金についてローンを希望するときは、被告五輪建設と提携している金融機関から融資を受けることができ、サクセス10の場合、自宅等の不動産があれば共有持分権の購入資金について頭金を含めて全額金融機関から融資を受けることができる。
(三) サクセス1は、土地付区分建物売買契約、賃貸借契約、金銭消費貸借契約等を組み合わせて、賃料収入や不動産値上がりに伴うキャピタルゲインの取得を目的とする商品である。
これに対し、サクセス10は、主にホテルの客室を部屋単位で購入するものであり、資産形成を目的とするサクセス1を相続税対策に応用したものとされている。
サクセス10は、主にホテル客室を部屋単位で購入する点及び自宅等の不動産があれば共有持分権の購入資金について頭金を含めて全額金融機関から融資を受けられる点がサクセス1とは異なる。
(四) 昭和六三年当時被告五輪建設が本件ホテルオーナーズシステムの対象として予定していたホテルは、渋谷、麻布、神田及び西新宿の四つのオリンピック・インであるところ、平成二年三月までに、オリンピック・イン渋谷及びオリンピック・イン麻布についての本件持分は完売された。
オリンピック・イン神田は平成二年三月一日に、オリンピック・イン渋谷は同年六月一八日に、オリンピック・イン麻布は同年一一月二一日に、オリンピック・イン西新宿は平成三年一〇月二日にそれぞれオープンした。
売買契約及び賃貸借契約の対象となった本件各ホテルは、それぞれ独立採算によって顧客に対する賃料を支払う計画であった。
(五) 本件ホテルオーナーズシステムに関する契約書は、重要事項説明書、土地付区分建物売買契約書、賃貸借契約書及び管理規約が一冊の冊子に綴じられたものである。
2 本件持分一口の価格
本件持分一口の価格である八〇〇万円の内訳は、六五〇万円が不動産売買代金、一五〇万円が施設維持費であり、これに消費税が含まれている。
不動産売買代金を六五〇万円と定めるに当たっては、国土利用計画法(以下「国土法」という。)上の届出がされた。
3 金融機関による融資
ノンバンクを含む一二の金融機関が本件ホテルオーナーズシステムの購入者に対し、購入資金を融資した。右金融機関による融資の合計件数は三三八件、融資残高合計は四九二億五三〇〇万円である。
右金融機関による本件ホテルオーナーズシステム購入者に対する融資は、平成元年一二月から平成三年一二月まで行われた。
このうち、被告大東京は、七二件、合計五億七九〇〇万円の融資を行った。被告大東京が購入者に対して融資を実行した時期は、平成二年一二月から平成三年五月までである。
被告大東京が本件ホテルオーナーズシステムの購入者に対して融資を実行した時期に同様に購入者に対する融資を行った金融機関は、さくら信販株式会社、生泉興産株式会社、いずみローン株式会社及び大和ファイナンス株式会社の四社である。
本件ホテルオーナーズシステムの購入者に対する金融機関の全融資額のうち被告大東京の融資額の占める割合は、約一・一七パーセントである。
本件ホテルオーナーズシステムの購入者合計三三九人のうち三七名(七二口)は、金融機関の融資を受けないで現金で購入した。右の現金購入者三七名のうち三六名は、サクセス1の購入者である。
被告五輪建設は、提携した金融機関に対し、被告五輪建設が一〇年後に顧客から売買価格を上回る価格で本件持分を買い取ることを保証したこと及び買取保証について顧客との間で本件覚書を取り交わしていることを知らせなかった。
三 平成二年前後の経済情勢
1 金融商品の利率等
(一) 長期貸出最優遇金利は、平成二年五月当時七・六パーセント、同年九月当時八・五パーセントであった。
(二) 一時払い養老保険一〇年物の利回りは、平成二年五月及び同年九月当時八・五三パーセントであった。
(三) 定期預金一〇年物の利回りは、平成二年五月及び同年九月当時七・八五一パーセントであった。
2 ホテルの稼働率
社団法人全日本シティホテル連盟の調査によれば、関東地方のホテルの年度平均客室利用率は、昭和六三年度八五・四パーセント、平成元年度八八・三パーセント、平成二年度八八・八パーセントであった。
また、東京二三区内のホテルの年度平均客室利用率は、平成元年度八九・一パーセント、平成二年度八九・四パーセント、平成三年度八八・四パーセントであった。
3 地価高騰
地価は、昭和五七、八年ころから急激に上昇し始めたが、平成三年ころから下落方向に向かった。
4 総量規制
平成二年三月二七日、大蔵省は、地価高騰への対策として、銀行、生命保険、損害保険各社に対し、不動産向けの融資を貸出全体の伸び以下に抑えるよう求める通達を出した。
四 不動産小口投資の動向等
1 事業者が事業用不動産を一口数十万円から一億円程度の共有持分権に小口化して投資家に販売する契約を結ぶと同時にその共有持分をその事業者(又は関連業者)に提供させ、事業者がこれを一括して運用し、賃貸収入及びその売却益を分配する不動産共同投資事業に関する商品には、任意組合型、賃貸型等があり、本件ホテルオーナーズシステムは、賃貸型に分類することができる。
不動産共同投資商品のうち、国内商品の昭和六二年から平成三年までの販売累計額は四一九六億円である。
右累計額の伸びは、昭和六三年から平成元年にかけて約二・六倍、平成元年から平成二年にかけて約一・六倍、平成二年から平成六年にかけて約一・四倍であった。
2 平成三年二月一九日初版第一刷の「「新」相続税対策法」(経済評論家海江田万里監修・くらしと税を考える会編)と題する書籍は、サクセス10の概要及び今後ホテル需要は伸びていくのでホテルの経営不振は考えられないこと、オリンピック・イン神田は交通至便な立地条件にあり、ビジネスのみならずレジャー目的の人々のニーズもかなり高いこと、この地域はかなりの上昇率で確実に地価が上がっていくことは疑う余地がなく、長期的に有望な資産価値のあるホテルであるということができること等を説明している。
3 平成六年、不動産特定共同事業の参加者の利益の保護を図るとともに、不動産特定共同事業の健全な発達に寄与する目的で、不動産特定共同事業を営むに際し、許可制度を実施することとした不動産特定共同事業法(同年法律第七七号)が制定された。
五 売買契約及び賃貸借契約の成立等
1 本件ホテルオーナーズシステムへの加入の勧誘
被告五輪建設を中心とする五輪グループは、昭和六三年から平成三年にかけて、三か月に一回程度の割合で合計約一〇回首都圏の新聞各紙に本件ホテルオーナーズシステムの折込広告を配布した。また、雑誌に本件ホテルオーナーズシステムの広告を掲載したり、ダイレクトメールを送付したりした。なお、五輪グループの作成した本件ホテルオーナーズシステムに関する広告等には、事業主体が五輪グループである旨明記されているが、提携金融機関として被告大東京及び被告ダイエーの社名は記載されていない。
各原告は、それぞれ右の新聞折込広告や雑誌等を見て、葉書又は電話で資料請求をするなどして被告五輪建設や五輪不動産販売株式会社と連絡を取った。
五輪グループの担当者は、各原告に対し、五輪グループのパンフレット等を用いて本件ホテルオーナーズシステムに関し大要次のとおり説明した。
すなわち、<1>一口八〇〇万円(施設維持費一五〇万円、不動産売買代金六五〇万円)でホテルの共有持分権を購入すること、<2>ローンを利用することにより確定申告においてローン残高に応じた税額控除が受けられること、<3>家賃収入として一口当たり年三六万円(年四・五パーセントの利回り)の配当を一〇年間にわたって受けられるので、ローンの支払も毎月小遣い程度の持ち出しですむこと、<4>一〇年後にキャピタルゲインを考慮した価格で被告五輪建設が「買い取り相談に応じる」とのパンフレットの記載につき、被告五輪建設が顧客から一〇年後に一一六〇万円で共有持分権を買い取る保証がある旨を説明した。
そして、各原告に対し、各人についての年収、頭金、ローン金額、ローンの利率等を設定して毎月の負担額がいくらになるかを説明した。その際、典型的な例として、購入者が、課税所得五〇〇万円、頭金一六〇万円、ローン金額六四〇万円、ローンの年利六・五パーセント、二五年返済という条件で一口購入した場合、毎月の負担額が六七〇〇円であること、一〇年後にはキャピタルゲインが考慮されて一一六〇万円での買取保証がされていること等をサクセス1の説明資料等を用いて説明した。
また、五輪グループの担当者は、各原告に対し、本件各ホテルの客室の設備の概要、販売価格、一部当たりの販売口数についても説明した。
なお、五輪グループの担当者は、各原告に対し、経済的な要因の変動、被告五輪建設の財務体質の悪化等によって一〇年後の買取保証及び年三六万円の賃料支払の各債務が履行されなくなるおそれがある点については説明しなかった。
被告五輪建設が本件持分の買戻し価格を一一六〇万円と決めたのは、本件各ホテルの不動産価値が年間四・五パーセント、一〇年間で四五パーセント値上がりすることを見込んだためである。
2 売買契約及び賃貸借契約の締結
各原告は、被告五輪建設との間で被告五輪建設が本件持分を一〇年後に一一六〇万円で買い取ることを保証するとの特約付きで本件売買を、及び被告五輪ランドとの間で本件賃貸借を、それぞれ左記(一)、(二)のとおり改めるほか、別紙個別契約特定資料1(売買)及び同2(賃貸借)各記載のとおり締結した。
なお、別紙個別契約特定資料1(売買)の移転登記受付日欄に( )で物件が記載されている各原告は、本件売買締結後、被告五輪建設との間で本件持分の対象たる物件を変更することにつき承諾書又は念書を取り交わした。
記
(一) 売買契約
原告乙山太郎の締結日を平成三年二月八日と、原告丙川松夫の締結日を平成二年一一月二七日、目的物件・持分割合を麻布七〇四・一四分の一、代金額を八〇〇万円、残代金支払期日を平成二年一二月末日と、原告丁原竹夫の目的物件・持分割合を麻布七〇五・一四分の一とそれぞれ改める。
(二) 賃貸借契約
原告乙山太郎の締結日を平成三年二月八日と、原告丙川松夫の締結日を平成二年一一月二七日、賃料を月三六万円、賃貸期間を平成三年一月一日から平成一二年一二月三一日までとそれぞれ改める。
六 本件協定書締結の経緯
1 平成二年五月八日、竹内は、公認会計士の紹介で被告ダイエーを訪れ、被告ダイエー営業推進部長杉本啓治及び同営業推進部主席神崎一臣(以下「神崎」という。)に対し、本件ホテルオーナーズシステムのサクセス1に対する提携ローンの取組みを要請した。その際、竹内は、「財産をのこす」と題する資料を提示して、被告五輪建設はハイレベル機能を持ったシティホテルの建設・販売・管理を主たる事業としていること、本件ホテルオーナーズシステムに係る本件各ホテルのうち、オリンピック・イン神田とオリンピック・イン渋谷は稼働していること、これらにオリンピック・イン麻布を加えた都内三か所のホテルについては既に顧客の募集を終えていること、他に多数の提携金融機関があり、部屋単位で販売するサクセス10のローンの実行は既に多数行われていること、サクセス10については小口化のニーズがあり、これに応えるためにサクセス1の販売について被告ダイエーと融資の提携をしたことなどを説明した。
被告ダイエー営業推進部の田中真二(以下「田中」という。)は、神崎から指示を受けて本件ホテルオーナーズシステムの商品内容等を検討し、平成二年五月一七日、被告五輪建設を訪問し、竹内から直接本件ホテルオーナーズシステムについての説明を受けた。
被告ダイエーは、興信所に依頼して被告五輪建設の信用調査をする一方、本件ホテルオーナーズシステムに関する提携ローン業務にどのような形で取り組むべきかを検討した結果、かねて被告ダイエーとともに提携ローン業務に取り組んだ実績のある被告大東京の方が、ノンバンクである被告ダイエーに比べて資金調達のレートが低く、より低利で融資を実行することができることから、被告大東京が顧客に対して融資し、被告ダイエーがその保証業務を行う方法が適切であるとの結論に達した。
2 平成二年五月二二日、神崎は、被告大東京融資部個人融資課長石井義久(以下「石井」という。)に対し、被告ダイエーの連帯保証の下に被告大東京が本件ホテルオーナーズシステムに関する融資について提携ローン業務をすることを提案した。
被告大東京は、融資部個人融資課を窓口として被告ダイエーに対し直接貸付を行ったり、被告ダイエーの連帯保証の下に分譲マンション等の購入資金を購入者に対し提携ローンにより融資するなど、被告ダイエーとの間に取引実績があったことから、被告ダイエーから提案された本件ホテルオーナーズシステムに対する提携ローン業務の件を前向きに検討することとした。
被告大東京は、被告五輪建設との取引経験がなかったため、株式会社帝国データバンクに被告五輪建設の信用調査を依頼した。
3 平成二年五月三一日、石井、神崎及び田中は、被告五輪建設本社を表敬訪問した。
その際、被告五輪建設営業本部長の宮沢正喜及び同総務部管理課長山本皓一は、石井に対し、「GORIN GROUP」と題するパンフレット(丙一)を交付し、被告大東京がサクセス1とサクセス10に対する提携ローン業務に取り組むこと及び被告大東京が五輪ファイナンスに対する原資を提供することをそれぞれ要請した。石井は、無担保かつ連帯保証もない五輪ファイナンスへの資金提供は損害保険会社の融資業務上不可能であると判断し、その場で右要請を断った。
4(一) そのころ、被告ダイエーは、被告五輪建設から本件各ホテルの収支計画を提示され、これを更に被告大東京に交付した。
右収支計画上、被告五輪建設は、本件各ホテルの客室利用率を、オリンピック・イン神田について八五パーセントとし、他方、オリンピック・イン麻布及びオリンピック・イン渋谷については八五パーセントとそれぞれ想定した上で更に危険率を五〇パーセントとし、また、本件各ホテルの収入については、購入代金一口八〇〇万円のうち一五〇万円を一〇年分の管理維持費に充てて、その一年分一五万円を管理費収入として計上し、さらに、オリンピック・イン神田及びオリンピック・イン渋谷については、管理費収入に対する運用利回りをその他収入として計上していた。なお、被告五輪建設は、被告ダイエー及び被告大東京に対し、既に稼働していたオリンピック・イン神田については実情を踏まえた収支計画になっていると説明した。
右収支計画によれば、オリンピック・イン神田は年間八四〇九万円の利益が、オリンピック・イン麻布は年間六二五七万八〇〇〇円の利益が、及びオリンピック・イン渋谷は年間一二二九万二〇〇〇円の利益がそれぞれ見込まれた。
(二) 被告大東京及び被告ダイエーは、それぞれ本件各ホテルの収支計画を次のとおり検討した。
まず、被告大東京は、オリンピック・イン神田の収支計画の収入欄の記載事項のうち客室の稼働率及びレストランの回転率が被告五輪建設の予想値に達するか否か懸念されたので、更に宿泊費収入及びレストラン収入を一五パーセント減じて収支を試算してみたが、なお黒字であった。そのため、被告大東京は、一口当たり年三六万円の賃料支払が実現可能であると判断した。
被告ダイエーは、当時客室の稼働率が九〇パーセントを超えているシティホテルもあることから、右稼働率を八五パーセントと想定するのも現実的であると判断し、また、本件各ホテルの収支計画では財源として顧客の購入代金中から年一五万円の管理費を計上しており、右管理費に対する金利を考慮すると、賃料は実質的には、年二一万円以下となることから、年三六万円の賃料支払も可能であると判断した。
(三) 平成二年六月上旬ころ、被告大東京の加藤課長代理と田中は、既にオープンしていたオリンピック・イン神田を現地調査した。
5 被告大東京及び被告ダイエーは、本件提携ローン業務に関する検討作業中に被告五輪建設からその昭和六三年八月一日から平成元年七月三一日までの決算報告書や本件ホテルオーナーズシステムに関するパンフレット、オリンピック・イン神田の契約書の見本等を入手した。
その結果、まず、被告大東京及び被告ダイエーは、被告五輪建設の信用度につき、借入金がやや多いが財務内容については中程度の評価を受けており、不動産事業を中心に積極的な業務展開をしていると判断をし、また、本件ホテルオーナーズシステムの不動産価格が一口六五〇万円と設定されている点につき、被告大東京は公示価格を基準に価格の妥当性を検討し、被告ダイエーは被告五輪建設が国土法の届出をしていたこと、当時は同法の上限価格で取引をすることが普通であったことなどから、それぞれ高すぎる価格ではないとの結論に至った。
なお、本件各ホテルが自用の建物及び敷地であった場合のその鑑定評価額及び本件各ホテルの販売対象総口数は、次のとおりである。
(一) オリンピック・イン神田
鑑定評価額 平成三年二月一八日現在五五億〇六〇〇万円(うち、土地四四億八七〇〇万円、建物一〇億一九〇〇万円)。
販売対象総口数 一六五五口
(二) オリンピック・イン渋谷
鑑定評価額 平成二年一二月二〇日現在二〇億二九四〇万円(うち、土地一六億六七九〇万円、建物三億六一五〇万円)である。
販売対象総口数 四九二口
(三) オリンピック・イン麻布
鑑定評価額 平成三年一月一日現在四八億四六一〇万円(うち、土地三九億三二八〇万円、建物九億一三三〇万円)である。
販売対象総口数 一二四八口
6 そして、被告大東京の個人融資課と被告ダイエーの営業推進部との間で融資の対象、額、金利等について検討が重ねられた結果、被告ダイエーが起案し、被告大東京がこれに修正する形で平成二年六月二七日付け「本件ホテルオーナーズシステムの商品フレーム」が作成された。
「本件ホテルオーナーズシステムの商品フレーム」によれば、被告五輪建設はローン申込書その他の必要書類の徴求、債権証書の徴求及び抵当権設定手続を、被告ダイエーは購入者に対する融資の一次審査(保証審査)、保証事務(集金、回収を含む。)及び未返済に対して督促をすることを、被告大東京は購入者に対する融資の二次審査をそれぞれ業務分担することが予定されている。
また、本件協定書の原案は、被告ダイエーに起案し、被告大東京がこれに修正する形で作成された。
7 平成二年七月一〇日、石井、神崎らは、被告五輪建設に赴き、宮沢らと本件ホテルオーナーズシステムに関する融資について話し合った。
石井は、宮沢らに対し、融資の可否は購入者の収入を基準に決定するのが被告大東京の方針であるのでサクセス1についてのみ融資すること、提携ローンにおける被告大東京の方針として当初は五億円をめどに融資を行うことを伝えた。
8 平成二年八月二四日、被告大東京は、当事業年度においては、五億円を限度に被告五輪建設の販売するホテル客室の共有持分権購入者に対し、頭金を除く残金について融資を行うことを社内決定し、その旨被告ダイエーを通じて被告五輪建設に伝えた。
9(一) 被告五輪建設、被告大東京及び被告ダイエーの各社持ち回りで平成二年九月三日付け本件協定書が締結された。
本件協定書は、被告ダイエーが起案したものであり、その標題に「本件ホテルオーナーズシステム融資保証業務に関する」という記載を加えたのは、被告大東京と被告ダイエーとが締結している本件協定書以外の業務協定と区別するためである。
本件協定書には、被告五輪建設が共有持分権購入者の信用調査を行い、基準に合致する者について被告ダイエーを経由して被告大東京に融資の申込みをあっ旋し、購入者から借入申込関係書類を徴求すること、購入者が被告大東京に対する支払を遅滞した場合、被告五輪建設は債権回収に協力する義務があること、被告五輪建設は被告大東京及び被告ダイエーに対し、毎決算期ごとに営業報告書を提出すること、被告大東京及び被告ダイエーは、必要と認めたときは被告五輪建設の現況を調査することができること等が定められている。
(二) 被告五輪建設と被告ダイエーは、本件協定書に基づき、平成二年九月三日付けで買戻し保証に関する覚書を取り交わした。右覚書は、顧客の被告ダイエーに対する債務の返済が不能となった場合、顧客の同意を前提として、被告五輪建設が顧客から本件持分を買い取り、その売買代金によって被告ダイエーに対する債務を支払うことを合意したものである。
10 以上の検討作業中において、被告五輪建設は、被告大東京及び被告ダイエーに対し、本件持分の購入者との間で買取保証の本件覚書を取り交わしたこと、「財産をのこす」と題する資料等に記載された「買い取り相談」において被告五輪建設が顧客から一〇年後に本件持分を買い取る保証をしたこと及び右買取金額については、何ら知らせなかった。
七 金銭消費貸借契約及び保証委託契約の成立
1 各原告は、被告五輪建設から借入額、利率及び変動利率であることについて説明を受け、被告大東京との間で本件消費貸借(変動金利型ローンに関する特約を含む。)を、及び被告ダイエーとの間で本件保証委託をそれぞれ別紙一〇一ないし一四五記載の各[1]欄(ただし、別紙一〇九記載の<5>欄の毎月の返済額を六万〇一七八円に、別紙一一三記載の<5>欄の毎月の返済額三万五二四三円を九万五五四八円に、同欄の三万四九四八円を空欄に、別紙一二四記載の<6>欄の年七・八%を八・一%に、同<7>欄の〇・三%を〇%に、別紙一四二記載の<5>欄の毎月の返済額を五万六六三八円に、同欄の初回調整額を七万二七九八円にそれぞれ改める。)及び別紙個別契約特定資料4(保証委託)記載(ただし、保証料の欄はいずれも二八パーセントと改める。)のとおり締結した。
被告大東京の各原告に対する融資の利率は基準金利に連動する変動利率であるから、各原告と被告大東京との間の金銭消費貸借契約証書記載の利率は、融資実行時の基準金利によって算出されたものであるとともに、保証料を含んだものが記載されている。なお、各原告に対し送付される返済明細書にも保証料を含んだ利率が記載され、各原告は、被告五輪建設が倒産するまでの間、右記載の利率に従った返済をしてきた。
被告大東京と被告ダイエーは、本件協定書において保証料率を二パーセントとすることに合意した。
2 金銭消費貸借契約及び保証委託契約の締結手続は、おおむね次のとおり行われた。
(一) 被告五輪建設は、本件持分を購入した各原告から申込添付書類確認票、不動産購入ローン借入申込書、印鑑登録証明書、住民票、所得証明書等を取り付けて、これを被告ダイエーに送付した。なお、本件協定書上売買契約書も被告ダイエーに送付すべき書類とされていたが、実際には、被告五輪建設から被告ダイエーに対し、本件各ホテルの契約書のうち、売買物件についての表示があるページ、土地付区分建物売買契約書の一ページ目(第五条一号三行目まで)及び末尾の署名押印のあるページの合計三枚のコピーの二セットが送付された。
(二) 被告ダイエーは、借入れの申込みをした各原告に対し、電話で借入意思を確認した上保証を引き受けるか否かを審査し、審査の結果保証をすることと決定した案件については被告五輪建設から送付を受けた前記の各書類のうち不動産購入ローン借入申込書に保証応諾印を押印し、これをその余の書類とともに被告大東京に送付した。
(三) これを受けて、被告大東京は、各原告に対する融資の可否をその年齢、職業、勤続年数、返済能力等の諸点から審査し、各原告に対し融資をすることを決定した。
被告大東京は、融資の審査を終えると、被告ダイエーを経由して被告五輪建設に大東京火災ローン融資審査完了のお知らせを送付した。
(四) 被告五輪建設は、右の融資審査完了の通知を受け、各原告から金銭消費貸借契約証書、変動金利型ローンに関する特約書、保証委託契約証書及び預金口座振替依頼書を取り付け、各原告の本件持分につき被告大東京のために抵当権設定登記をした上、被告ダイエーを経由して融資実行依頼書を被告大東京に送付した。
(五) 被告大東京は、被告ダイエーを経由して送付を受けた書類を点検し、抵当権設定登記の完了を確認した上、融資実行日を定めて融資を実行し、実行日の日付で大東京火災ローン融資実行のお知らせを被告ダイエーを経由して被告五輪建設に通知するとともに、被告ダイエーを経由して各原告に返済明細書を送付した。また、被告大東京は、抵当権設定登記済証を後日被告五輪建設から被告ダイエーを経由して受領した。
八 被告大東京の融資の中止
被告大東京は、平成三年五月二〇日、被告五輪建設からの抵当権設定登記済証の持込みが遅滞したこと及び被告五輪建設の信用度に疑問が生じたことから、本件ホテルオーナーズシステムに関する新たな融資を中止した。
九 被告五輪ランドの賃料支払
被告五輪ランドは、各原告に対し、別紙賃料入金表記載のとおり賃料を支払ったが、被告五輪建設の平成三年一二月二五日の倒産に伴い、同日以降賃料の支払を停止した。
一〇 原告らの支払停止
各原告は、被告大東京に対し、本件消費貸借に基づき別表一〇一ないし一四五記載の各[2]欄のとおり弁済したが、被告五輪ランドからの賃料支払が停止したため、それ以降の支払を停止した。
一一 被告大東京に対する被告ダイエーの代位弁済等
被告ダイエーは、被告大東京に対し、別表一〇一ないし一四五記載の各<21>欄の年月の各二七日に(ただし、別紙一四六記載の年月についてはそれぞれ同記載の起算日の前日に、同<21>欄の最終日(別紙一〇九記載の<1>欄の原告にあっては平成五年三月一日)については同日に)、同<22>欄の金額(ただし、別紙一〇四、一一五、一一六、一二三及び一三四記載の各<22>欄の最後の代位弁済額をそれぞれ七〇四万二八二五円、五八七万八九八三円、六六一万一六七四円、六六九万八四九〇円及び六四四万六一四五円に改める。)を保証債務の履行として代位弁済した。その合計額は、同<28>欄(ただし、別紙一〇四、一一五、一一六、一二三及び一三四記載の各<28>欄の合計額をそれぞれ七六一万三八四七円、六四八万六四七五円、六九〇万二七四三円及び七三八万三九〇九円に改める。)のとおりである。
また、被告ダイエーが代位弁済した期間中、各原告は、被告ダイエーに対する保証料を支払わなかった。その合計金額は、別表一〇一ないし一四五記載の各<25>欄のとおりである。
さらに、被告ダイエーは、代位弁済による被告大東京からの抵当権移転登記手続を了し、平成五年四月一六日、右費用を各原告のために立て替えて支払った(ただし、被告ダイエーは、原告戊田梅夫に係る右費用を平成六年五月一四日に、原告丙山松子に係る右費用を同年一月一三日にそれぞれ支払った。)。そして、本件保証委託によれば、右登記手続費用は、被告ダイエーの支出後直ちに各原告が被告ダイエーに対し支払うこととされていた。右登記手続費用は、別紙一〇一ないし一四五記載の<30>欄のとおりである。
一二 契約の解除等
各原告は、被告らに対し、平成五年一二月九日送達の本件訴状をもって、本件ホテルオーナーズシステム加入契約又は本件各個別契約を詐欺により取り消す旨及び債務不履行により解除する旨の意思表示をした。
(争点に対する判断)
一 基本事件
1 争点1(一)(本件ホテルオーナーズシステムに関して締結される各契約は、全体として一個の契約又は一体的な契約と評価することができるか否か。)
(一) 原告らは、各原告と被告らとの間で締結された本件各個別契約が本件ホテルオーナーズシステム加入契約とも呼ぶべき一個の複合的性質を有する無名契約又は相互に密接な関連性を有する一体的な契約であると主張し、本件ホテルオーナーズシステムという名称、被告五輪建設の従業員が本件ホテルオーナーズシステムは全体として一個の利殖商品であると説明したこと、本件持分一口の価額が時価の約五分の一であること、本件ホテルオーナーズシステムはローンの使用を当然予定していたこと等をその根拠として挙げる。
また、原告らは、被告大東京及び被告ダイエーが本件ホテルオーナーズシステムに本件協定書の締結を通じて参加することで初めてサクセス1の販売が可能となったなどとも主張する。
(二) しかし、前記認定によれば、各原告は、被告ら全員と同一内容の契約書を取り交わしたものではなく、被告五輪建設との間では土地付区分建物売買契約書を、被告五輪ランドとの間では賃貸借契約書を、被告大東京との間では金銭消費貸借契約証書及び抵当権設定契約証書を、及び被告ダイエーとの間では保証委託契約証書をそれぞれ取り交わしたこと、被告五輪建設から本件持分を購入した者のうち三七名(うち三六名はサクセス1の購入者)は、ローンを利用しないで自己資金で本件持分を購入していることに照らすと、本件持分の購入とローンの利用との間に必然的な結びつきはないこと、被告五輪建設が被告ダイエーに対し、本件ホテルオーナーズシステムに関する提携ローン業務についての案件を持ちかけた時点でオリンピック・イン神田は既に稼働し、本件協定書締結までにはオリンピック・イン渋谷も稼働していたこと、平成二年三月までには、オリンピック・イン麻布、オリンピック・イン渋谷についての本件持分は完売されていたこと、原告らのうちには、未だ融資をする金融機関が未定の時期に被告五輪建設との間で本件売買を締結した者も相当数いることに照らすと、被告大東京及び被告ダイエーが融資をすることを決定しなければおよそ本件持分の販売が不可能であったという関係は存しないこと、本件売買と本件消費貸借は、同時に締結されたことがないばかりか、原告らのうち相当数(一八名)は、本件売買を締結して一年以上経過して初めて本件消費貸借を締結していること、被告大東京は保険業法により法定された業務を行うものであり、本件持分の販売やホテルの経営等を行うことはできないこと、本件ホテルオーナーズシステムに関する各契約の債務のうちには、契約の当事者である被告以外の被告では本来代替することができない債務(本件持分の移転登記をする義務等)もあること、被告大東京の融資は、被告五輪建設のホテル建設のための融資ではなく、本件持分の購入者に対する融資であること、被告大東京の本件持分の購入者に対する融資は、本件ホテルオーナーズシステムの購入者に対する提携金融機関の融資総額の約一・一七パーセントを占めるにすぎないこと、被告五輪建設は、提携金融機関である被告大東京及び被告ダイエーに対し、各原告と買取保証に関する本件覚書を締結した事実を説明していないこと、本件各ホテルの売買代金(一口八〇〇万円のうち六五〇万円)総額は、本件各ホテルについての経営のノウハウ等の代価を除いた敷地及び建物の当時の時価の約一・五倍から約一・九倍程度の額に止まっていること、本件持分の移転登記の対象が契約書に記載された当初の目的物件と異なる者については、念書又は承認書が取り交わされていることなどの事実が認められる。
これらの事実によれば、各原告は、各別の機会に、被告五輪建設と売買契約を、被告五輪ランドと賃貸借契約を、被告大東京と金銭消費貸借契約及び抵当権設定契約を、及び被告ダイエーと保証委託契約をそれぞれ個別に締結したと認めることが相当である。したがって、本件各個別契約の法的評価に関する原告らの前記主張は、その余の点につき判断するまでもなくいずれも失当であり、採用することができない。
2 同1(二)(出資法違反の成否)
前記認定によれば、被告五輪建設は、各原告と土地付区分建物売買契約書を取り交わし、その債務の履行として本件持分を移転し、かつ、その持分権移転登記を了したこと、本件売買の契約書には、本件持分一口についての不動産売買代金、施設維持費及び共有持分の割合が明記されていること、本件持分の移転登記の対象が契約書に記載された当初の目的物件と異なる者については、念書又は承認書が取り交わされていること、被告五輪建設は、本件各ホテルの客室等の募集口数及び面積をパンフレットで明らかにし、特にオリンピック・イン神田については客室一部屋当たりの販売価格も明示していること、一口八〇〇万円のうち本件持分の売買代金に相当する六五〇万円については国土法上の届出がされていること、同一物件を重ねて売買した事実はないこと、被告五輪建設が各原告に対し約した買取保証の内容は、一〇年経過後に各原告の請求に基づき本件持分を被告五輪建設が代金一一六〇万円で買い取るというものであり、期間の経過により被告五輪建設が必ず買い取ることとはされていないこと、本件各ホテルの売買代金(一口八〇〇万円のうち六五〇万円)総額は、本件各ホテルについての経営のノウハウ等の代価を除いた敷地及び建物の当時の時価の約一・五倍から約一・九倍程度の額に止まっていること、被告五輪建設が配布した本件ホテルオーナーズシステムの広告には、「ホテルの所有権をお譲りします」と記載されていること、サクセス10は相続税対策を目的としていることなどが認められ、これによれば、本件売買は、不動産の取引としての実体を伴っていると認められる。
しかして、出資法一条にいう出資金とは、不特定多数の者から一定の事業のために出資される金員で、後日右金員全額又はこれを超える金額が支払われるものであるところ、右認定によれば、本件売買に基づき各原告が被告五輪建設に対して支払う金員は、本件持分の売買の対価すなわち売買代金であると認められ、出資金と認めることはできないし、また、預金、貯金又は定期積金の受入れ及び借入金その他何らの名義をもってするを問わず、これらと同様の経済的性質を有するものでもないから、同法二条にいう預り金とも認めることはできない。
よって、出資法違反を理由とする原告らの前記主張は、理由がない。
3 同1(三)(貸金業法違反の成否)
前記認定によれば、被告大東京は、保険業法の適用を受ける損害保険事業を目的とする株式会社であり、融資を業として行うことにつき改正前保険業法一条一項の主務大臣の認可を受けていること、被告大東京が各原告に対し本件持分の購入資金の一部について融資を実行したことが認められる。
してみると、被告大東京は改正前保険業法に基づき各原告に対し融資を行ったものであるから、右融資は、貸金業法二条一項二号の「貸付けを業として行うにつき他の法律に特別の規定のある者が行うもの」に該当し、同項柱書の「貸金業」に当たらない。したがって、被告大東京の各原告に対する融資には、貸金業法は適用されない。
よって、貸金業法違反を理由とする原告らの前記主張は、その前提を欠き理由がない。
4 同1(四)(錯誤の成否)
前記認定によれば、被告五輪建設は、平成二年二月当時信用調査会社から中程度の信用評価を受けており、今後の業績についても期待が持てるものとされていたこと、五輪グループは、リゾートホテル等の経営経験があったこと、本件持分が各原告に対し販売された当時(昭和六三年から平成三年までの間)はいわゆるバブル経済の時期であり、一般的に、首都圏の地価が今後も上昇すると予測され、総量規制による地価の下落傾向は平成三年ころまでは顕著ではなかったこと、右販売当時、いわゆる不動産小口投資の販売累計額は大幅な上昇を続けていたこと、本件売買が締結された当時、関東地方や東京二三区内のホテル客室利用率は、年度平均が九〇パーセント近くに達し、月別利用率については九〇パーセントを超える月もあったこと、本件各ホテルの収支計画によれば、年三六万円の支払賃料のうち一五万円は、管理維持費として原告らが預託した金員を財源としていることなどが認められる。
本件持分を購入してから一〇年後に各原告から請求があった場合、一口八〇〇万円につき本件持分を一一六〇万円で買い取るという被告五輪建設の債務及び年三六万円の賃料を一〇年間にわたって支払うという被告五輪ランドの債務の実現可能性は、金利、客室利用率、地価、被告五輪建設の財務内容等の諸要素の変動に左右されると認められるところ、右認定事実によれば、本件売買及び本件賃貸借が締結された当時において、被告五輪建設及び被告五輪ランドの右債務の履行が客観的に不可能であったとまでは認めることはできない。
したがって、本件売買、本件賃貸借、本件消費貸借及び本件保証委託が錯誤により無効であるとの原告らの主張は、理由がない。
5 同1(五)(詐欺による取消しの成否)
前記認定によれば、本件持分が各原告に対し販売された当時(昭和六三年から平成三年までの間)はいわゆるバブル経済の時期であり、一般的に、首都圏の地価が今後も上昇すると予測され、総量規制による地価の下落傾向は平成三年ころまでは顕著ではなかったところ、被告五輪建設が本件持分一口八〇〇万円について買取金額を一一六〇万円と定めたのは、年四・五パーセントの割合で地価が上昇すると見込んだためであること、右販売当時、いわゆる不動産小口投資の販売累計額は大幅な上昇を続けていたこと、本件売買が締結された当時、関東地方や東京二三区内のホテル客室利用率は、年度平均が九〇パーセント近くに達し、月別利用率については九〇パーセントを超える月もあったところ、本件各ホテルの収支計画では、客室利用率が八五パーセントと定められていることなどが認められる。
右認定事実によれば、被告五輪建設の従業員が、実際には各原告のローンの負担が少額とはならないこと、一〇年後の買取保証及び年三六万円の賃料支払の各債務の履行が不可能であることを認識して各原告を勧誘したとまでは認めることはできない。
したがって、被告五輪建設の従業員の詐欺により本件各個別契約を取り消すとの原告らの主張は、理由がない。
6 同1(六)(債務不履行解除の成否)
(一) 本件各個別契約が一個の契約又は一体的な契約であるとの原告らの前記主張が採用するに由ないものであることは前記説示のとおりであるところ、以下において本件各個別契約につきそれぞれ債務不履行による解除が成立するか否かについて判断する。
(二) 本件売買及び本件賃貸借に関する債務不履行の有無
(1) 前記認定によれば、被告五輪建設は、各原告に対し、本件持分を購入して一〇年経過した後に各原告の請求に基づき、本件持分を一一六〇万円で買い取るという債務を負担していたこと及び被告五輪建設が、平成三年一二月二五日倒産したことが認められる。したがって、被告五輪建設が本件持分を売買して一〇年経過した後に一口一一六〇万円で各原告から本件持分を買い取ることは、社会通念上不可能になったものと認められるから、被告五輪建設は、右買取債務につき履行不能に至ったことが認められる。
(2) もっとも、被告五輪建設の右買取債務は、本件売買の付随的義務であるともいうことができる。
一般に、付随的義務違反による契約の解除を認めることができるのは、右違反により契約当事者が当該契約の主たる目的を達することができない場合に限定されると解されるところ、本件持分について被告五輪建設が買取りを保証したことは、各原告が本件売買を締結した主たる動機の一つと認めることができること、被告五輪建設も広告等に買取相談を受けると太字で記載し買取保証に関する本件覚書まで締結していることからすると、被告五輪建設の買取債務の履行不能により、各原告は本件売買を締結した主たる目的を達することができなくなったものと認めることができる。したがって、各原告は、被告五輪建設の右債務不履行に基づき本件売買を解除することができると認めるのが相当であるから、各原告が被告五輪建設に対し平成五年一二月九日送達の訴状をもってした本件売買の解除は、有効である。
(3) してみると、被告五輪建設は、各原告に対し、本件売買の解除による原状回復義務に基づき、各原告が被告五輪建設に支払った別紙個別的支払金額表記載の頭金支払額欄の金額及びこれに対する右解除の日の翌日である平成五年一二月一〇日から民法所定の年五分の割合による利息を支払う義務がある(なお、原告らの基本事件における本件請求は、本件各個別契約を一個の契約又は一体的な契約であるとしてその全部の解除に基づく原状回復請求であるところ、右説示の本件売買の解除に基づく原状回復請求は、本件請求に包含されるものと解される。また、原告らの本件請求に係る金員は、被告五輪ランドが各原告に支払った別紙賃料入金表記載の合計入金額を控除した後の残額であるが、右説示の本件売買の解除に基づく原状回復請求においては、右合計入金額を控除する必要は認められない。)。
(4) 前記認定によれば、被告五輪ランドは、各原告に対し、本件持分一口につき年三六万円の賃料を一〇年間にわたって支払うという債務を負担していたこと及び被告五輪ランドは、被告五輪建設倒産後、各原告に対する賃料の支払を怠っており、今後賃料が支払われる見通しもないことが認められる。したがって、被告五輪ランドは、右賃料支払債務を履行していないことが認められるから、各原告の被告五輪ランドに対する債務不履行を理由とする本件賃貸借の解除は有効である。しかしながら、右解除は、将来に向かって本件賃貸借を消滅させるにすぎず、遡及的効力はないから、右解除により被告五輪ランドが各原告に対しその請求する金員の返還義務を負うことは認められない。
(三) 本件消費貸借及び本件保証委託に関する債務不履行の有無
(1) 原告らは、被告大東京及び被告ダイエーが被告五輪建設と提携ローンの関係にあるので、被告大東京及び被告ダイエーは、被告五輪建設の経営状態及び本件ホテルオーナーズシステムの危険性について調査し、その結果判明した事実を各原告に説明すべき義務、融資を拒絶すべき義務又は被告五輪建設及び被告五輪ランドの負う買戻義務及び賃料支払義務を履行する義務があったにもかかわらず、右各義務を怠ったなどと主張するので、この点について判断する。
(2) 前記判示のとおり、各原告は、被告大東京との間で消費貸借契約を、被告ダイエーとの間で保証委託契約をそれぞれ個別に締結し、右各契約に従い、被告大東京は各原告に金員を貸し渡し、被告ダイエーは各原告の債務について連帯保証をしたものである。
改めていうまでもなく、売買契約と融資契約は、契約の当事者及び内容等を異にする別個の契約であることは明らかであるから、融資者は、販売者とともに融資の対象となる商品の販売勧誘を積極的に行うなどして購入者の購入意思の決定過程に関与した場合など特段の事情がある場合を除いては、売買の対象となる商品及び販売者に関する事項について調査し、説明し、融資を拒絶し、更には販売者の義務を履行すべき法的義務を負うことはない。
(3) 前記認定のとおり本件売買と本件消費貸借及び本件保証委託は別個の契約であるから、特段の事情がない限り、被告大東京及び被告ダイエーが各原告に対し、右各義務を負うことはない。
前記認定によれば、本件ホテルオーナーズシステムを開発したのは五輪建設を中心とする五輪グループであること、本件ホテルオーナーズシステムに関する広告やパンフレットには被告大東京及び被告ダイエーの社名は記載されておらず、被告大東京及び被告ダイエーが本件持分の販売を積極的に勧誘した事実を認めることはできないこと、被告五輪建設から本件持分を購入した者のうち三七名(うち三六名はサクセス1の購入者)は、ローンを利用しないで自己資金で本件持分を購入していることからいって本件持分の購入とローンの利用との間に必然的な結びつきはないこと、被告五輪建設が被告ダイエーに対し、本件ホテルオーナーズシステムに関する提携ローン業務についての案件を持ちかけた時点でオリンピック・イン神田は既に稼働し、本件協定書締結までにはオリンピック・イン渋谷も稼働していたこと、平成二年三月までには、オリンピック・イン麻布、オリンピック・イン渋谷の本件持分は完売されていたこと、原告らのうちには、未だ融資をする金融機関が未定の時期に被告五輪建設との間で本件売買を締結した者も相当数いることからいって、被告大東京及び被告ダイエーが融資及び保証をすることを決定しなければ本件持分の販売が不可能であったなどという関係はないこと、被告大東京は、融資に先立ち、被告五輪建設の信用調査を依頼し、その結果、被告五輪建設が将来性も認められ、中程度の信用評価を受けていることを確認していること、被告大東京が本件ホテルオーナーズシステムの購入者に対し購入資金の一部の融資を実行したのと同じ時期に、他に四つの金融機関が本件ホテルオーナーズシステムの購入者に対し購入資金の融資を実行していること、被告大東京の本件持分の購入者に対する融資は、本件ホテルオーナーズシステムの購入者に対する金融機関の融資総額の約一・一七パーセントを占めるにすぎないことなどが認められる。
右認定事実によれば、被告大東京及び被告ダイエーが原告らに対し、本件ホテルオーナーズシステムの商品内容及び被告五輪建設の経営状況等について調査の上説明をし、融資を拒絶し、又は履行すべき特段の事情があったことを認めることはできない。
よって、被告大東京及び被告ダイエーに債務不履行の事実を認めることはできない。
7 同1(七)(被告五輪建設の債務不履行責任を被告五輪ランド、被告大東京及び被告ダイエーも共同で負担するか)。
(1) 前記6(二)判示のとおり、被告五輪建設は、債務不履行に基づく解除により原状回復義務を負担する。
原告らは、本件各個別契約が有機的に関連し、一体不可分の関係にあり、被告らが共同事業者であることなどを根拠として被告らが被告五輪建設の債務不履行に基づく原状回復義務を共同して負担すると主張する。
(2) しかし、仮に被告らの間に右のような関係があるとしても、被告五輪建設の債務不履行責任を他の被告らが共同して負担することになるかについて、原告らの主張は法律上の根拠を欠いている。
仮に原告らの主張する義務を契約における信義則上の義務と解するにしても、前記認定のとおり、本件各個別契約は契約の主体及び契約の内容を異にする別個の契約であること、被告五輪建設が被告ダイエーに対し、本件ホテルオーナーズシステムに関する提携ローン業務についての案件を持ちかけた時点でオリンピック・イン神田は既に稼働し、本件協定書締結までにはオリンピック・イン渋谷も稼働していたこと、平成二年三月までには、オリンピック・イン麻布、オリンピック・イン渋谷についての本件持分は完売されていたこと、原告らのうちには、未だ融資をする金融機関が未定の時期に被告五輪建設との間で本件売買を締結した者も相当数いることからいって、被告大東京及び被告ダイエーが融資をすることを決定しなければ本件持分の販売が不可能であったなどという関係はないこと、被告大東京の融資は、被告五輪建設のホテル建設のための融資ではなく、本件持分の購入者に対する購入資金の一部についての融資であること、被告大東京の融資は、本件ホテルオーナーズシステムの購入者に対する金融機関の融資総額の約一・一七パーセントを占めるにすぎないこと、被告大東京は、融資に先立ち、被告五輪建設の信用調査を依頼し、その結果、被告五輪建設が将来性も認められ、中程度の信用評価を受けていることを確認していること、被告大東京が本件ホテルオーナーズシステムの購入者に対し購入資金の一部の融資を実行したのと同じ時期に、他に四つの金融機関が本件ホテルオーナーズシステムの購入者に対し購入資金の融資を実行していること、本件ホテルオーナーズシステムの購入者に対し融資を実行した金融機関は、被告五輪建設から、買取保証及び本件覚書の締結の事実を知らされていなかったことなどの事実を認めることができるから、信義則上、被告大東京及び被告ダイエーが被告五輪建設の債務不履行に基づく原状回復義務を連帯して履行しなければならない関係を認めることはできない。
また、被告五輪ランドについても、被告五輪ランドが被告五輪建設の一〇〇パーセント子会社であり、代表者を同じくすると認めることができるものの、被告五輪建設とは別個の法人であること、本件売買と本件賃貸借は、契約の主体及び契約の内容等を異にする別個の契約であること、本件ホテルオーナーズシステムを開発したのは、主に被告五輪建設であること、被告五輪建設の前記債務不履行は、その倒産に伴うものであることなどからいって、信義則上、被告五輪ランドが被告五輪建設の債務不履行に基づく原状回復義務を連帯して履行しなければならない関係を認めることはできない。
8 同1(八)(共同不法行為の成否)
(一) 被告五輪建設の不法行為の成否
(1) 原告らは、本件ホテルオーナーズシステムそれ自体が違法性の強い事業であること及び被告五輪建設の従業員が違法又は誤った説明をしたことを被告五輪建設の不法行為として主張する。
(2) しかし、まず、前記説示したとおり、本件ホテルオーナーズシステムが出資法に違反しているとの原告らの主張は理由がない上、前記認定によれば、被告五輪建設は貸借対照表等の財務関係の書類を公開していたこと、平成二年一二月当時週刊住宅は、被告五輪建設が本件ホテルオーナーズシステムの事業展開をしていることを報じつつ、早ければ平成五年三月にも被告五輪建設が株式の店頭公開を行うと報じ、平成三年九月当時にも週刊住宅は、被告五輪建設が同年八月から株の店頭公開の準備を開始し、平成七年に公開を予定していると報じたこと、本件ホテルオーナーズシステムが販売された当時、一般的に本件ホテルオーナーズシステムが不健全な事業であると評価されていたことを認めるに足りる証拠はなく、かえって、当時経済評論家が監修した書籍において本件ホテルオーナーズシステムは高い評価を受けていたこと、本件持分が販売された当時はいわゆるバブル経済の時期であり、一般に、首都圏の地価が今後も上昇すると予測され、総量規制による地価の下落傾向は平成三年ころまでは顕著ではなかったところ、被告五輪建設が本件持分一口八〇〇万円について買取金額を一一六〇万円と定めたのは、年四・五パーセントの割合で地価が上昇すると見込んだためであること、右販売当時、いわゆる不動産小口投資の販売累計額は大幅な上昇を続けていたこと、本件売買が締結された当時、関東地方や東京二三区内のホテル客室利用率は、年度平均が九〇パーセント近くに達し、月別利用率については九〇パーセントを超える月もあったところ、本件各ホテルの収支計画では、客室利用率が八五パーセントと定められていることなどの事実が認められる。
してみると、各原告が本件ホテルオーナーズシステムを購入した当時、右システム自体が違法な事業であるとおよそ評価することはできず、したがって、本件ホテルオーナーズシステムの違法性を前提とする原告らの前記主張は、理由がない。
(3) また、前記認定によれば、被告五輪建設の従業員は、原告らに対し、本件ホテルオーナーズシステムの商品内容、すなわち、<1>顧客が、ホテルの敷地共有持分権を含む客室等の共有持分権を、一〇年後に被告五輪建設が購入価格を上回る価格(原告らの場合は、一口一一六〇万円)で買い取るとの保証約束の下に、被告五輪建設から一口八〇〇万円で購入すると同時に、<2>顧客が、右購入に係る共有持分権の対象たるホテル客室等を被告五輪ランドに対し、期間一〇年、賃料年三六万円・年二回分割払の条件で賃貸すること、<3>提携ローンを利用することができ、これを利用すると節税効果が望めることなどについて説明していること、本件持分が販売された当時はいわゆるバブル経済の時期であり、一般的に、首都圏の地価が今後も上昇すると予測され、総量規制による地価の下落傾向は平成三年ころまでは顕著ではなかったこと、右販売当時、いわゆる不動産小口投資の販売累計額は大幅な上昇を続けていたこと、本件各売買契約が締結された当時、関東地方や東京二三区内のホテル客室利用率は、年度平均が九〇パーセント近くに達し、月別利用率については九〇パーセントを超える月もあったこと、平成二年一二月当時週刊住宅は、被告五輪建設が本件ホテルオーナーズシステムの事業展開をしていることを報じつつ、早ければ平成五年三月にも被告五輪建設が株式の店頭公開を行うと報じ、平成三年九月当時にも週刊住宅は、被告五輪建設が同年八月から株の店頭公開の準備を開始し、平成七年に公開を予定していると報じたこと、被告五輪建設は、平成二年二月当時信用調査会社から中程度の信用評価を受けており、今後の業績についても期待が持てるものとされていたことなどの事実が認められる。
本件持分の買取金額及び賃料額は、本来、地価の動向、金利の変動、客室利用率の変化等の各要因に従い、変動すべきものであるところ、本件ホテルオーナーズシステムは、買取金額の最低価格及び賃料を保証している。してみると、右買取り及び賃料支払の各債務の実現可能性は、経済的な諸要因のほか、最終的には被告五輪建設の財務状態に大きく依存していることが明らかであるから、経済的要因の変動等により被告五輪建設の財務状態が悪化した場合には、右各債務が実現され得ないことも容易に予想されることであるといわなければならない。
原告らは、被告五輪建設の従業員は、被告五輪建設が倒産するおそれはない、本件ホテルオーナーズシステムは安全な商品であるなどと説明した点に違法性があると主張する。
しかし、仮に被告五輪建設の従業員が原告らの主張するような趣旨の説明をしたとしても、それは、前記認定の経済情勢等を背景とした強気の見通しを述べたにすぎないものと考えるのが相当であり、右のように説明したことをもって違法又は誤った説明をしたとまでは認めることはできない。
(4) したがって、被告五輪建設の不法行為は、認めることはできない。
(二) 被告五輪ランドの不法行為の成否
(1) 原告らは、被告五輪ランドは、本件持分一口につき月額三万円の賃料名目の配当金の支払をすることが客観的に不可能であるにもかかわらず、被告五輪建設とともに月額三万円の賃料支払が可能であるかのように装って顧客への宣伝勧誘の材料にするという違法行為を行ったなどと主張する。
(2) しかし、前記認定によれば、本件ホテルオーナーズシステムが販売された当時、一般的に本件ホテルオーナーズシステムが不健全な事業であると評価されていたことを認めるに足りる証拠はなく、かえって、当時経済評論家が監修した書籍において本件ホテルオーナーズシステムは高い評価を受けていたこと、週刊住宅も、被告五輪建設が本件ホテルオーナーズシステムを事業展開していることを報じつつ、被告五輪建設が株式の公開を予定していることを報じていること、本件持分が販売された当時はいわゆるバブル経済の時期であり、一般的に、首都圏の地価が今後も上昇すると予測され、総量規制による地価の下落傾向は平成三年ころまでは顕著ではなかったところ、被告五輪建設が本件持分の買取金額を一一六〇万円と定めたのは、年四・五パーセントの割合で地価が上昇すると見込んだためであること、右販売当時、いわゆる不動産小口投資の販売累計額は大幅な上昇を続けていたこと、本件各売買契約が締結された当時、関東地方や東京二三区内のホテル客室利用率は、年度平均が九〇パーセント近くに達し、月別利用率については九〇パーセントを超える月もあったところ、本件各ホテルの収支計画では、客室利用率が八五パーセントと定められていること、被告五輪ランドは、被告五輪建設が倒産するまでの間、各原告に対し、所定の賃料を支払ったことなどの事実が認められる。
右認定事実によれば、当時の経済情勢下において本件持分一口について月額三万円の賃料を支払うことがおよそ不可能であったとまでは認められず、したがって、被告五輪ランドが本件持分一口につき月額三万円の賃料支払を保証した点をもって違法であると認めることはできない。
(3) よって、被告五輪ランドの不法行為は、認めることができない。
(三) 被告大東京及び被告ダイエーの不法行為の成否
(1) 被告大東京は、各原告から申込みを受け、改正前保険業法の許容する範囲内で融資を実行したのであるから、被告大東京の融資自体は、何ら違法ではない。
また、被告ダイエーが各原告から委託を受けて各原告の債務について保証したことも、同様にそれ自体は何らの違法性も認められない。
(2) 問題は、被告大東京及び被告ダイエーが被告五輪建設の経営状態等及び本件ホテルオーナーズシステムについて調査をした上で、原告らに対し、何らかの説明をし、又は融資を拒絶すべき義務があったと認めることができるか否か及び右各義務の違反があったと認めることができるか否かである。
この点については、契約関係を前提として調査義務・説明義務・融資拒絶義務について判断した前記6(三)の判示が不法行為の場合についても当てはまるのであり、右判示に照らして、被告大東京及び被告ダイエーに、原告ら主張の右各義務違反を認めることはできない。
(3) よって、被告大東京及び被告ダイエーの不法行為は、認めることができない。
二 個別事件
1 争点2(一)(請求原因事実の存否)
(1) 前記認定によれば、請求原因1ないし6の事実は、各原告と被告ダイエーとの間に保証料及び被告ダイエーが原告戊田梅夫及び原告丙山松子に係る登記費用を立替払した日を除き、別紙一〇一ないし一四五記載の事項につき前記認定のとおり改めた上で、認めることができる。
(2) 前記認定によれば、本件協定書には、本件保証委託における保証料が年二パーセントであることが記載されていること、各原告は、被告ダイエーが金銭の貸付、保証等を業とする株式会社であり、本件保証委託における遅延損害金が高率であることを認識していたこと、各原告と被告大東京は、保証料を含めた本件消費貸借の利息について合意したことなどからすると、各原告と被告ダイエーは、各原告と被告大東京との間で合意した利息の範囲内において被告大東京と被告ダイエーが定めた保証料を支払うことを合意したものと認めるのが相当である。したがって、各原告と被告ダイエーとの間の本件保証委託の保証料は、年二パーセントであると認めることができる(これにより、各原告と被告大東京との間の本件消費貸借の利率は、前記主位的主張のとおりであることが認められる。)。
また、被告ダイエーが原告戊田梅夫に係る登記費用を平成六年五月一四日に、原告丙山松子に係る登記費用を同年一月一三日にそれぞれ支払ったことは、前記認定のとおりである。
2 同2(抗弁の当否)
(一) 原告らは、本件消費貸借及び本件保証委託についての調査義務、危険説明義務及び融資拒絶義務の各違反を理由とする解除又は貸金業法及び出資法違反による無効を理由に被告ダイエーの個別事件における本件請求を拒絶すると主張するが、基本事件において判示したとおり、本件消費貸借及び本件保証委託の債務不履行を理由とする解除は認めることはできないし、また、本件消費貸借及び本件保証委託が貸金業法及び出資法に違反している事実も認めることはできないから、原告らの右主張は、いずれも理由がない。
(二) 原告らは、更に被告五輪建設及び被告五輪ランドの債務不履行を理由に被告ダイエーの個別事件における本件請求を将来的に拒絶するとして、いわゆる抗弁権の接続を主張する。
しかし、原告ら主張の抗弁権の接続は、その法令上の根拠がなく、前記認定によれば、本件各個別契約は、契約の主体及び内容等を異にする別個の契約であること、本件ホテルオーナーズシステムを開発したのは五輪建設を中心とする五輪グループであること、被告五輪建設が被告ダイエーに対し、本件ホテルオーナーズシステムに関する提携ローン業務についての案件を持ちかけた時点でオリンピック・イン神田は既に稼働し、本件協定書締結までにはオリンピック・イン渋谷も稼働していたこと、平成二年三月までには、オリンピック・イン麻布、オリンピック・イン渋谷についての本件持分は完売されていたこと及び原告らのうちには、未だ融資をする金融機関が未定の時期に被告五輪建設との間で本件売買を締結した者も相当数いることからいって、被告大東京及び被告ダイエーが融資をすることを決定しなければ本件持分の販売が不可能であったなどという関係はないこと、被告大東京の融資は、被告五輪建設のホテル建設のための融資ではなく、本件持分の購入者に対する購入資金の一部の融資であること、被告大東京の融資は、本件ホテルオーナーズシステムの購入者に対する金融機関の融資総額の約一・一七パーセントを占めるにすぎないこと、被告大東京は、融資に先立ち、被告五輪建設の信用調査を依頼し、その結果、被告五輪建設が将来性も認められ、中程度の信用評価を受けていることを確認していること、被告大東京が本件ホテルオーナーズシステムの購入者に対して融資を実行したのと同じ時期に、他に四つの金融機関が本件ホテルオーナーズシステムの購入者に対し購入資金の融資を実行していること、本件ホテルオーナーズシステムの購入者に対し融資を実行した金融機関は、被告五輪建設から、買取保証及び本件覚書の締結の事実を知らされていなかったことなどの事実が認められ、右認定事実に照らせば、各原告は、信義則上も被告五輪建設及び被告五輪ランドの債務不履行をもって、被告ダイエーの本件請求に対する抗弁とすることはできないというべきである。
(三) よって、原告らの主張する抗弁は、採用することができない。
3 以上によれば、各原告は、被告ダイエーに対し、本件保証委託に基づき次の金員を支払う義務がある。
(一) 前記認定の代位弁済額合計金(前記認定のとおり改めた別紙一〇一ないし一四五記載の各<28>欄の金額)
(二) 前記認定の未払保証料合計金(別紙一〇一ないし一四五記載の各<29>欄の金額)
(三) 前記認定の立替費用(別紙一〇一ないし一四五記載の各<30>欄の金額)
なお、右(一)ないし(三)の合計額が別紙一〇一ないし一四五記載の各<31>欄の金額(ただし、別紙一〇四、一一五、一一六、一二三及び一三四記載の各<1>欄の原告にあっては別紙一四七記載の金額)である。
(四) 前記認定の各代位弁済額に対する各弁済の日の翌日から支払済みまで約定の年二九・二パーセントの割合による遅延損害金
(五) 前記認定の未払保証料に対する弁済期の翌日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金
(六) 前記認定の立替費用に対する弁済の日の後である平成五年四月一七日から(ただし、原告戊田梅夫にあっては平成六年五月一五日から、原告丙山松子にあっては同年一月一四日から)支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金
三 結論
以上によれば、原告らの基本事件における本件請求及び被告ダイエーの個別事件における本件請求は、それぞれ主文記載の限度で理由があるからこれを認容し、その余は失当であるからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条一項本文を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項を各適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 吉戒修一 裁判官 脇 博人 裁判官 池田順一)